財布から毎月持っていかれるお金。そのうちの一つが「年金」です。最近は企業から年金保険というような商品が出ていますが、ここで解説するのはお国の年金です。
三階建ての年金像
年金というのは三段構えになっております。
この3つをもって、老後(老齢給付)、障害(障害給付)、死亡(遺族給付)に備えているわけです。こまごまとした制度はありますが、まずはこれが基本です。
すべての基礎・国民年金
国民年金は「20歳から60歳未満の人」が加入します。
※保険料は20歳(20歳の誕生日の前日)の月から60歳(60歳の誕生日の前日)の前月まで納めます。たとえば12月24日が誕生日の人は11月分まで納めるわけです。
国民年金の被保険者は三種類います。
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第一号被保険者 ・・・ 自営業、学生、無職
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第二号被保険者 ・・・ 会社員
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第三合被保険者 ・・・ 第二号の配偶者
※会社員にもいろいろいます。たとえば18歳で働いている人。こういうひとは会社員なので厚生年金に入っているのです。そして実は厚生年金の支払いには国民年金の支払いも含まれています。しかし18歳なので、普通にみれば国民年金の被保険者ではありません。どうなっているのでしょうか。
答えは単純に「国民年金に入っていない扱い」になっています。厚生年金額には反映されますが、国民年金には影響しません。
※国民年金には日本国籍は必要ではありません。日本に在住していればよいのです。ちょっと驚きです。
- 日本に住んでいない日本人には加入義務はないことになります。しかし「任意加入」することはできます。
保険料の納付は毎月、次の月の末日までに行います。
※会社に入っている人は給料から天引き。
※払いに行かなくても口座振替や、前納という方法があります。口座振替は月末に引き落としで期限よりも一か月早く納め、前納は半年、1年、2年早く納めます。早く納めれば納めるほど割引されます。
※滞納した分は5年以内に払わないとその分のお金はもらえなくなります。国民年金を受給するには払い込んだ期間も関係するので、最悪なにももらえません。
収入が少ない場合は免除制度が使えます。
- 法定免除 … 全部。年金半額反映。
- 申請免除 … 全部。3/4。半額。1/4。反映あり。
- 学生納付特例 … 猶予。反映なし。「あとで払え」
- 若年者納付猶予 … 猶予。反映なし。「あとで払え」
※これはぜひ知ってほしいものです。3番と4番は猶予されているだけで払う分は変わりません。しかし申請免除は全部免除を受けても年金が半分もらえます。しかも滞納をしていないので障害年金も遺族年金も受け取れます。
※しかも滞納と違ってその後10年間は払い残した分を払ってしまうことができます(滞納の場合は5年しか待ってくれませんでした)。
※ただし付加年金とかいうプラスアルファの制度は利用できなくなります。注意。
支払った保険料は全額が所得から控除されます。
稼いだ分だけ税金がとられますが、100万稼いで50万を年金支払いに使っていたら稼ぎは50万とみなされるということです。
老齢基礎年金
条件:受給資格期間が10年以上
保険料をきちんと納めた期間と、保険料免除期間の両方合わせて10年あればよいのです。ただし『免除』です。学生のときは納付を猶予してもらえますがあれは先延ばしにされているだけで、免除ではありません。
※もともとは25年でしたが最近改正されました。
必要な資格期間が25年から10年に短縮されました|日本年金機構
受給額:77万9300円(平成30年度)(受給開始は65歳から)
もちろん月額ではなく、年額です。12で割ると一か月につき6万5000円ほど。場所によっては家賃を支払っただけでトびますね。国民年金の加入期間は60歳未満なので払い込みから五年間は年金が受け取れないことになります。この五年を「待機期間」と呼びます。
繰り上げと繰り下げ
- 繰上げ受給というものがあります。これは年金を前倒して受け取ってしまおうというものです。最大で五年間の繰上げが可能です(任意加入している人は繰上げできません)。しかしもちろんタダでやらせてもらえるわけもなく、『繰上げた月数×0.5%』減額されます。つまり、60歳から受け取ろうとすれば12(か月)×5(年)×0.5%、つまり30%受け取れる年金が減ります。その額はなんと54万5510円。一か月あたり約4万5000円です。
- 繰り下げ受給というものもあります。これは逆に年金受取を延ばすものです。『繰り下げた月数×0.7%』増額されます。つまり70歳から受け取ろうとすれば12(か月)×5(年)×0.7%、つまり42%増額です。その額はなんと110万6606円。一か月あたり約9万2000円です。
第一号被保険者のための制度
- 付加年金。これは支払う保険料に月400円上乗せすることで『200×付加年金納付月数』分だけ増額されます。40年間、つまり480か月×200ですから最大で96000円増額されます。基礎年金を満額で受け取れるとすると、779300+96000=87万5300円になります。
- 国民年金基金。ちょっと複雑。いろいろなプランがあります。 付加年金と併用はできません。
- 小規模企業共済。従業員が20人以下の個人事業主や会社(商業・サービス業では5人)が対象。掛け金は月額1000円から70000円の間で、500円単位で選べます。貰える額は、
障害基礎年金
条件は3つあります。
- 初診日に国民年金の被保険者であること。
- 障害認定日に障害等級1級、2級に当てはまること。
- 保険料納付期間+保険料免除期間が全被保険者期間の2/3以上
※1番について
- 被保険者であるためには20歳以上60歳未満である必要がありましたね。
- 但し、かつて被保険者だった60歳以上65歳未満の国内在住者も1番を充たすと考えます。
- 「未成年はどうするねん」ということですが、20歳前の傷病についての障害については給付金がもらえる制度があります。20歳前というと国民年金に加入する前ですから、保険料の納付は必要ありません。詳しくはこちら。
※3番について
- 全被保険者期間とは「それまでの」ということです*1。たとえば21歳の大学生なら1年間ということになりますね。ただ大学生などの場合は支払い能力がないこともあります。こういうときに『公的年金:全体像』で説明した学生納付特例という制度を使って支払いを猶予してもらうわけです。後払いだからそんなに変わらないといわんばかりの説明をしましたが、こういうところに利用するわけですね。
年金額は障害の級数によります。
- 1級に該当する場合 → 779,300円×1.25
- 2級に該当する場合 → 779,300円
※さらに子どもがいる場合は金額が加算されます。
- 第1子・第2子 各 224,300円
- 第3子以降 各 74,800円
障害の例などより詳しい内容はこちら。
遺族基礎年金
要件:「保険料納付期間+保険料免除期間」が全保険者期間の2/3以上ある。
老齢基礎年金を受給する資格のある人は当然要件を満たしますので、年金を払っている最中に亡くなってしまった場合に、この要件をチェックします。
受給できる遺族:「子」または「子のある配偶者」
- 18歳になって最初の年度末(3/31)までが「子」です。単純に言って18歳までですが、3月末までは認められるわけです。
- 配偶者は年収850万円以下でなければなりません。
年金額:77万9300円(老齢基礎年金と同じ)
但し、子の数によって加算があります。
- 子の加算 第1子・第2子 各 224,300円
- 第3子以降 各 74,800円
気になるのは「子がいないと駄目やん」ということだと思います。厚生年金のほうはもっと手厚いのでこの点も大丈夫ですが、国民年金しか加入していない人は困ります。そこで次の制度があります。
「寡婦年金」と「死亡一時金」
- 寡婦年金 年金を受け取れずに夫が亡くなってしまった場合です。もらえるのは10年以上夫婦だった奥さんです。旦那さんが亡くなったとき65歳未満である必要があります。寡婦年金を受け取れるのは60歳から65歳までのあいだです。金額は「夫が受け取れた老齢基礎年金額の3/4」です。
- 死亡一時金 保険料納付期間が3年以上あって、年金を受け取らずに亡くなった場合です。遺族基礎年金を受け取る対象者がいないようなとき、もらえる遺族の範囲を広げてくれます。1・配偶者、2・子、3・父母、4・孫、5・祖父母、6・兄弟姉妹です。たとえば配偶者も子もおらず、父母がいる場合は父母に支払われます。金額は「12万円~32万円」で、付加年金を3年納めていた人は8500円が加算されます。寡婦年金と違い、一回ポンと受け取って終わりです。
寡婦年金と死亡一時金は同時に受給できません。二つに当てはまるような妻の方は、どちらを選ぶか考えなければなりません。
死亡一時金は条件がゆるやかであるというところも一つの魅力になっています。
厚生年金の給付
年金には三つの「力」があります。
- 老齢給付 ・・・ 年取ってからもらうTHE年金
- 障害給付 ・・・ 病気やケガで障害が! の時のお金
- 遺族給付 ・・・ 亡くなったとき遺族に渡されるお金
これが特に厚生年金だった場合、上から順に「老齢厚生年金」「障害厚生年金」「遺族厚生年金」といいます。
もちろん、無条件にもらえるわけではありません。今回はその条件や、給付額などを解説していきます(老齢厚生年金)
老齢厚生年金の全体像
面倒くさいのですが、老齢厚生年金には二種類あります。
- 特別支給の老齢厚生年金(60歳から64歳までのもの)
- 65歳以上の老齢厚生年金
※何故二つあるのかというと、昭和60年の改正によって老齢厚生年金の支給が60歳から65歳にまで引き上げられました。しかしいきなり5年分無くすのではなく、段階的に減らしていこうとしました。
※ところで今のうちに書いておこうと思うのですが、このブログの読者の多くは特別支給の老齢厚生年金は受け取れないと思われます。理由はあとで書いています。
厚生年金といえば、給料から天引きされることで有名ですが(?)、もちろん月の支払額が多ければ多いほど支給額は多くなります。支払ったお金は国民年金の支払いにも使われます。このように支払にも「2つの意味」があるわけです。それに応じて支給されるお金が2つの部分に分かれます。
- 定額部分 (加入期間に応じたもの)
- 報酬比例部分(会社からの報酬に応じたもの)
特別支給の老齢厚生年金
要件:老齢基礎年金受給資格期間を満たしている+厚生年金1年以上
- 平成30年現在、老齢基礎年金受給資格期間は25年です。
受給額の計算
- 定額部分 = 1625円 × 被保険者期間の月数(480か月まで)
- 報酬比例部分 = A + B
A = 平均標準報酬月額 × 0.007125 × H15年3月以前の被保険者期間
B = 平均標準報酬月額 × 0.005481 × H15年4月以降の被保険者期間
- 平均標準報酬月額というのは、要するに月々の給料平均です。
支給開始年齢
全体像のところで「段階的に減らす」という話をしました。もう既にその計画は始まっているため、恐らくこのブログの読者の方は『定額部分』を受け取ることはできません。こちらのサイトで支給開始年齢を確認してみてください。
男性と女性で減らされ方が異なるのですが、5年遅れの女性でも生年月日が昭和33年(1958年)以降の方の定額部分の支給はなくなっています。
そして完全になくなるのが男性で「昭和36年4月2日生まれ以降」、女性で「昭和41年4月2日生まれ以降」です。これ以前に生まれた方はギリギリもらえますね。
しかしかといってまったく無関係なものというわけではありません。生年月日に関係なくもらえる場合があります。それが次の特例です。
受給の特例
- 障害者の特例
- 長期加入者の特例
※1番について
被保険者期間1年以上+現在、老齢厚生年金の被保険者でない+障害等級1~3級
このような人は特別支給の老齢厚生年金を受け取れます。
※2番について
現在、老齢厚生年金の被保険者でない+被保険者期間が44年以上
65歳からの老齢厚生年金
要件:老齢基礎年金受給資格期間OK + 厚生年金1か月
※FP試験を受ける方向け。特別支給の要件と比較すると、向こうが「1年」でこちらが「1か月」になっています。頻出問題です。
受給額の計算
- 定額部分 = 老齢基礎年金額 + 経過的加算
- 報酬比例部分 = 「特別支給の老齢厚生年金」の報酬比例部分
経過的加算 = 1625円 × 被保険者期間の月数 - C
C = 779300円 × 昭和36年4月以降20歳以上60歳未満の被保険者月数 ÷ 480
※老齢基礎年金額と「特別支給」の定額部分には満額で700円の差があります。その減少分を補填するために経過的加算というものがあります。被保険者期間40年で計算してみると経過的加算は700円になっていますね。
老齢厚生年金を増やす制度(繰上げ繰り下げ、加給年金)
- 繰上げ繰下げについて。これは国民年金のほうにあったものと同様です。ふつうは65歳から受け取るものを「遅く」受け取るほど年金額が増えるというものです。逆に「早く」受け取ろうとすると減額されます。国民年金部分と厚生年金部分の繰り下げは別々に行えますが、繰上げは一緒にしなければなりません。
- 加給年金について。厚生年金被保険者期間20年以上あって「65歳未満の配偶者 又は 18歳到達年度末日までの子」がいる場合には、加算されます。配偶者のいるときは224500円。子どもは第1子、第2子で224500円。それ以降は74800円です。子どもについて障害等級1、2級の場合は20歳未満でも要件を満たしているとみなされます。
配偶者が65歳を過ぎると加給年金は支給停止され、生年月日に応じた振替加算というものに切り替わります。
老齢厚生年金額を減らす制度(在職老齢年金)
在職老齢年金と言われるといかにも増やしてくれそうな名前ですが、年金額を減らしてきます。定年後に働いたら損、といわれるのはこのため。稼ぎすぎると減らすどころか支給停止までしてきます。
読むのが面倒な方へ。要するに60歳~64歳の間は月28万円、65歳以降は月47万円の稼ぎから影響が出てきます。稼ぎ稼ぎといっていますが、「稼ぎ」には受け取る老齢厚生年金額も含めます。
障害厚生年金
要件は3つ
- 初診日に厚生年金被保険者
- 障害認定日に障害等級1、2,3級
- 「保険料納付期間+保険料免除期間」が全被保険者期間の2/3
※ 障害基礎年金では障害等級3級の方は受給できませんでした。
受給額は障害等級による
具体的な数字が出てるので見やすいと思います。
支給額は「報酬比例部分」(これまで払ってきたお金)によって変動します。
3級は「報酬比例部分」のみ支給。
2級は「報酬比例部分」に「配偶者加給年金」がプラス。
1級は「報酬比例部分」×1.25 に「配偶者加給年金」がプラス。
遺族厚生年金
要件:3つのうち1つ当てはまればOK
- 厚生年金の被保険者・受給権者が死亡
- 被保険者期間中の傷病がもとで、初診の日から5年以内に死亡
- 1,2級の障害厚生年金受給権者が死亡
受給できる遺族:配偶者・子 > 父母 > 孫 > 祖父母
- 遺族基礎年金ではかなり範囲が狭かったですが、遺族厚生年金では範囲が広がっています。
- 子や孫が対象者になるにはその時に満18歳以下である必要あり。
- 夫・父母・祖父母は55歳以上。受給は60歳から。
加算する制度 ①中高齢寡婦加算 ②経過的寡婦加算
夫を亡くした奥さんを対象としたものです。
- 中高齢寡婦加算。夫の死亡時、(1)40歳以上65歳未満で子がいない妻 (2)40歳以上65歳未満で遺族基礎年金を失権している(子が18歳になると失権する)の人。
中高齢寡婦加算は65歳になると打ち切られ、老齢基礎年金が給付されます。しかし一般には受給額は減額となるので、その分を補う、
- 経過的寡婦加算
というものがあります。

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*1:にんじんは「全被保険者期間」という言葉がずっとよくわかりませんでした。