今回のテーマは「所得税」です。
さて、所得税というのは所得に対して税率を掛け算して決まります。
この税率の決め方というのは難しいところでしょう。自分で国を統治しているものと想定して、ちょっと考えてみてください。
ある人が100万円、ある人が500万円、ある人が900万円……といった風な儲けを出しているとします。彼らにどれぐらい納めさせるのが良いでしょうか。まず考えるのが一番単純なパターンです。人類はみな平等なので全員から10%とりましょう。するとそれぞれ10万円、50万円、90万円納めることになります。いくら稼いでいようが同じ税率を適用するのを「比例税率」といいます。
これに対して、所得に応じて変わっていく税率を「差率税率」といいます。所得に応じて変わるわけですから、 100万円ジャスト→税率100% ということも理屈では考えられますが、普通はそんな風にしません。所得が増えるにつれどんどん税率が高くなるか、低くなるかのどちらかです。
前者を「累進税率」、後者を「逆進税率」といいます。ただし、この逆進税率というのを採用している国は今のところどこにもありません。
さて、どんどん進んできました。この記事のテーマは単純累進課税と超過累進課税の違いでした。累進税率というのはさらに二つに分けられ「単純累進税率」と「超過累進税率」に分けられます。
- 単純累進税率:所得が高くなると全体の税率が上がる
- 超過累進税率:所得が高くなるにつれて段階的に税率が上がる。
なのですが、この二つの違いがわかるでしょうか。
単純累進課税と超過累進課税の違い
今の日本の税率がこちらです。
🥕が900万円稼いだとしましょう。
🍮が901万円稼いだとしましょう。
①もし日本が単純累進課税だったら?
900 × 23% = 207万円 (🥕の税金)
901 × 33% = 297万円 (🍮の税金)
ということで、たった一万円稼ぎが違うだけで90万近くとられます。
②もし日本が超過累進課税だったら?
(🥕の税金)
195 × 5%
135 × 10%
365 × 20%
205 × 23% 全部足すと143万4000円です。
(🍮の税金)
195 × 5%
135 × 10%
365 × 20%
205 × 23%
1 × 33% 全部足すと 143万7300円です。
900万円までは🥕さんと🍮さんは税金が同じなのですが、最後の1万円の分だけ🍮さんが多く税金を支払うことになります!
一万円の差で🍮さんは🥕さんよりも3300円多く支払うことになるわけですが、単純累進課税に比べて、大変納得のいくものになっているかと思われます。
これだけは知っておきたい「税金」のしくみとルール改訂新版4版 これだけは知っておきたいシリーズ
- 作者: 梅田泰宏
- 出版社/メーカー: フォレスト出版
- 発売日: 2018/04/20
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
所得とは?
今度は「そもそも所得ってなんだろう」ということです。
所得税法第5条を見ると、
居住者は、この法律により、所得税を納める義務がある。
としています。居住者とは「国内に住所がある」か、もしくは「現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人」のことです。
所得税法にはこの所得税のいろいろな決まりが書いてあります。しかし肝心の「所得」が一体なんであるかについてははっきりと書いてありません。
なんでそんなことを気にしないといけないのかといえば、「そもそも何に課税しようとしてるの?」ということがはっきりしないからです。
所得とはなにか
所得の捉え方については、大きく分けて2つあります。
- 消費型所得概念 … 所得とは消費のことである。
- 取得型所得概念 … 所得とは取得のことである。
消費型所得の場合は、使わない貯蓄の分には一切課税されません。あくまで使った分だけに課税することになるため(所得=消費の総額)です。
ご存知のように日本は、そして他の国々もこの取得型所得概念を選んでいます。消費型所得の欠点として、「課税方法が複雑になる」こと、「公平な課税を実現することがむずかしくな」ることが挙げられています。
取得型所得概念は「新たな経済的価値の取得」が所得だとするものです。
次に問題となってくるのは、じゃあ取得があればなんでもかんでも所得にしてしまうのか、ということです。これにYESと答えた時、包括的所得概念と呼ばれ、NOと答えた時、制限的所得概念と呼ばれます。制限的所得概念は毎月のお給料など反復・継続性のあるものにのみ課税し、一時的なものには課税はしないでおこうというものです。
日本ではどちらを採用しているのかといえば、前者の包括的所得概念です。十種類の所得区分をご存知の方もいると思いますが「一時所得」というものがあるように、ポッと発生した継続性のないものにも課税がされています。
※ちなみに、反復・継続性のあることを「所得源泉性」といいます。この用語を用いれば「制限的所得概念は所得源泉性のあって、しかも新たな経済的価値の取得に対してのみ課税」といえます。
しかしながら、反復・継続性のない所得というのは、当たり前ながら次にまた発生するかどうかわからないような不安定なものです。こういう所得については日本の所得税法も課税を少なくしています。
Point : 違法でも所得
さて、所得は取得の事でした。
つまり違法であろうが所得になります。
Point : 重要な事例:債権放棄
取得型所得概念は経済的価値が新たに発生することを所得といいます。
たとえば、🍮が🥕にお金を貸しているとしましょう。その金額があまりにも高くなってきたので🍮さんのほうも「どうせ返せないだろう」と思って「もうあの金はいいよ」と返済しなくていいと告げたとしましょう。
🥕さんはお金を返さなくてもよくなった→負債がなくなったことになります。
このなくなった分も、🥕さんの所得にあたるとみなされるのです。
もうひとつの所得の分け方
所得源泉性というのはその所得が反復・継続的に得られるかどうかというものでした。この「ある」と「なし」で所得が分けることのほかに、所得の分け方があります。
- 資産性所得
- 勤労性所得
がそれです。資産性所得というのは資産から得られる所得のことで、勤労性所得というのは働くことによって得られるお金のことです。
察するに、「金持ち父さん貧乏父さん」が言っていた「お金を働かせよ」というのは資産性所得を増やせという意味だったのでしょう。勤労性所得の場合はその人がいなくなればなくなってしまうのに対して、資産性所得はその人がどうなろうが生まれ続けます。
こういう意味で、資産性所得のほうが担税力(税を納める力)が高いといえます。
この資産性所得と勤労性所得の分け方を重視する理論が「最適課税論」と呼ばれるものです。今現在、日本は所得を十種類に分けていますが、そのおかげで税制度がとても複雑になっているともいえます。そのためもう少しまとめて考えようという議論もあります。
誰に課税する?
所得税の負担単位は「個人」「なんらかのまとまり」の二種類が考えられるでしょう。前者を個人単位主義、後者のうちで特に世帯ごとに所得税を計算したのが世帯単位主義といいます。戦前の日本は世帯単位主義でしたが、現在は個人単位主義になっています。
例外
法律ではよくあることですが、何事もすっきりいきません。個人単位主義といっても例外があります。所得というのは個人が得た利益のことですので、売上から経費を引いたものになるのですがこの点が問題になってきます。要するに所得がなければ税はかからないので、経費を増やして税金逃れをしようとするのはまぁありそうなことです。
たとえばあなたが何かお店をやっているとして、奥さんに手伝いを頼むとしましょう。給与をどれぐらい支払うかはあなたの勝手なので、税負担がまったくない程度にポンと渡したことにすればどれだけ稼いでも所得税を払う必要がなくなってしまいます。
そこで所得税法56条は「必要経費不算入」を取り決めています。そういうのはナシ! と先に言ってしまっているのです。続けて、今度は金をもらう奥さんのほうですが、それも所得としては考えないことになっています。要するに、あなたと奥さんでお金のやりとりはなかったとみなされるのです。これは厳密な個人単位主義とはいえません。奥さんと一体になっているからです。
また、奥さんが店舗の賃料を払ったときも、あくまで事務所が払ったことになります。
例外の例外
法律ではよくあることですが、なんにでも例外があります。上に書いた例外にも例外があります。必要経費不算入だといいましたが、一定の要件を満たせば必要経費としていくらかは取り扱ってもいいよという規定があるのです。
それは「青色申告専従者給与」と「事業専従者控除」というものです。青色申告というのは事業主が財務状況をしっかり行政に報告することでいろいろお許しを願うというような制度ですが、こういうところも青色申告をするメリットのひとつです。