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にんじんと読む「コミュニケーション・ストレス 男女のミゾを科学する(黒川伊保子)」🥕

 男女の脳に基本的な機能差はない。働かせ方が違うのだ。咄嗟にどの回路を使うかに性差があらわれる。この回路選択は進化の結果、つまり生物学的なものである。ここで「感性」という言葉を、脳が無意識のうちにとっさに使う神経回路特性と定義しよう――――機能的には同じだが、感性が異なるわけだ。しかし機能自体はどちらも有している!*1

 感性には二種類ある。逆に言えば二種類しかない。

  •  ゴール指向問題解決型 「指摘」スタイル ・・・問題解決を急ぐ
  •  プロセス指向共感型 「共感」スタイル ・・・深い気づき

二種類の感性

【プロセス指向共感型】

 プロセス指向共感型とは「感情トリガーが対応する感情キーのついた記憶を引き出す」傾向のことである。なんらかの感情が起こったとき、それが引き金となって脳からその感情に関係する記憶を引きずり出してくる。たとえば不安を感じたとき、これは前のあの体験に似てると想起し、危機を察知するのに役立つ。危機回避回路である。

 だから女は「蒸し返す」。一方で「共感(わかりみがある)」してくれる。

 

☑ この回路は武器ではない。ゆえに過去の蒸し返しは本気で見限った相手にはしない。もし蒸し返されて鬱陶しい場合は定番の仲直りアイテムを作るのがよい。判を押したように同じことを繰り返していると、過去のことよりアイテムを思い出すようになるだろう。

☑ ところでこの回路は危機回避用なので蒸し返しを放っておくととんでもないことになる。やがては恨みや蔑みへと変わるだろう。

 

【ゴール指向問題解決型】

 ゴール指向問題解決型は「意識の最初にゴールを見定める」傾向のことである。ゴールを見定めたらそれに向かうために邪魔なものを鋭く察知し速攻で対処しようとする。判断が早く有事の対応力に長けている。

 しかしゴール以外は見えない。ゴール以外ははっきりいってどうでもいいので、その道中にくっついているごちゃごちゃもやはりどうでもいい。「カレに話を聞いてもらえない」と嘆く女性陣の話にはおそらく結論がないので、おそらくカレは話を聞いてはいるが聞いているだけで、女性の望むようには聞いていない*2

 

☑ ところで当たり前だが、ゴールを意識した時点ではゴールにはたどりついていない。男性は仮想的な道を敷いているわけである。女性からすると男性がぼうっとして何を考えているかわからないことがあるかもしれないが、「意識を浮かせ」るエクササイズ中なので重要だとか。

 

 

 

 以上より、なにが優れているかわかっただろうか。

 もっともすぐれているやつはこの回路を自分で切り替えられる奴である。一言でいえば「しなやかな感性をもった男性脳」と「よく訓練された女性脳」だ。

 

 

【コミュニケーション・ストレス】

 なんとなくわかったと思うが、男と女のミゾは「相手も自分と同じ回路だろう」と思いこむことから生まれる。男と女がいつも同じ感性を用いるわけではないから、より一般にいえば、人間関係のストレスも「相手も自分と同じ回路だろう」と思いこむことから生まれるわけだ。

 

二種類の対話

  プロセス指向型が「心の文脈」、問題解決型が「事実文脈」という対話スタイルをもつ。

【心の文脈】

心の文脈は感情トリガーを契機に過去のプロセスをなぞる話法のことで、「今日●●に行った」からはじまり、そこであった嫌なことだったりを「あんなことがあってさ、それでこうでさ、それですごく嫌だったんだよね」などと言う。

 話している本人もしばしばわかっているように、「だからなんなんだよ」と言いたくなるスタイルである。しかしこれを侮るのは間違いである。話しながらそこでの感情を再体験することでその出来事を見直している。「嫌だったな」という結論はたいてい変わらないだろうが、別の見方を発見することがあるのだ。

 心の文脈(要するに感情につながる記憶の生起の垂れ流し)に対して客観的アドバイスなどしてはいけない。なぜなら《感情トリガーを混乱させ、脳を一気に緊張させる》ため、脳が演算に失敗したことに気づき不快になるからだ。つまり感情トリガーを契機に出てくるものは出しきらせたほうがいいということだろう。

共感型A「昨日、お客にこんなこと言われたの」

共感型B「わかる~、私なんて、こんなひどいこと言われたことある」

共感型A「えーっ、それはひどいね。けど、そこんとこ、気をつけるとこなのかもね」

共感型B「ほんとね」

コミュニケーション・ストレス 男女のミゾを科学する (PHP新書)

  だいたいこういう風にしてプロセス指向は対話する。そのなかで問題解決する。

 ところがここに問題解決型がくると最悪で、「聞き流せよそんなのw」と来るので共感してもらえない。すると心の文脈が紡げなくなって「えっ……」と立ち止まるはめになり、どうしようもなくなってしまう。

 

 問題解決型の人は「今日何してた?」「どこに行ってた?」と尋問から会話をスタートすることが多い。ところがプロセス指向は、問題解決型からすれば、質問に真正面から答えられない。新しいスカートをはいている妻をみて「いつ買ったんだ?」と話しかけると、家計を預かっている妻は「相談もせずにいつ買ったんだ?」と解釈し「安かったから(相談しなかったんだ)」と答える。こっちは「いつ」買ったのかを聞いたのに、安いかどうかなんて聞いていない。*3

 ではどうやって会話を始めるのかというと、出来事のプレゼントである。「今日こんなことがあってさ~」タイプのことを言えばよろしい。

 【事実文脈】

 事実文脈は問題解決型であり、まさに問題解決のためにある。罠を踏みかけている人に対して「行くんじゃねえ」と言わずに「そっちに行きたい気持ちは分かるが」などといってはいられない。妻が姑と争っているとき、夫は争わないで済む方法を探している。それで「あんなこと言っちゃ駄目だよ」というのだが、妻は向こうの肩をもつのかとブチ切れる。

 事実文脈はアドバイスの塊である。心の文脈とは徹底的に相性が悪い。「状況を見極め混乱を回避する」というのが事実文脈の役割であり、非常に重要なのだが、共感は基本的にはない。

 

 こういう人と話すとき、女の人はスタート地点で配慮できることがある。結論を最初に言うことだ。「今日さ、すごく忙しかったんだよね。それが~」とくれば着地点がわかるので男性も安心する。男性がこれに対して心の文脈を意識してくれればコミュニケーションはうまくいくわけだ。要するに何がしたいのか最初に言ってくれればいいのだが、まぁ、これはあまりに男性に偏り過ぎな意見だろう。

 とはいえ、たとえば事実文脈ベースで進む仕事などで結論を先に言わないととんでもないことになる。相手が問題解決型の人ならなおさらである。営業目標を下方修正したいと先に言わずに、「こんなことがあって、しかもこんなこともあって、だから~~」などと言おうものなら、エピソードひとつにつき恐ろしい数の批判が飛んでくる。もちろんすべて問題を解決するための善意のアドバイスだが、プロセス指向型の女性などはボコボコにされた気分でデスクに帰ることになる。

 女性は女性でなんで下方修正したいと先に言い出せないのかというと、相手が「え~……」と思うのが目に見えているからだ。だからまずは仕事で起こった災難について延々と語ってから、しぶしぶといった面持ちで、自分の主張をしたくなる。

 

 そこでプロセス指向型の女性にアドバイスをしよう。ネガティブな主張で言い難いときは「~のために」という明るい目的をセットにすればよい。下方修正しようぜなんてとても言えないので、「チームの意欲向上のために」などといえば「下方修正しましょう」につなげやすい。すると上司は「ん、どういうことだ。聞かせてくれ」となる。

 

 そしてもうひとつアドバイスがある。男と話すときは次の三つのステップを守ろう。

  1.  視界に入る(というか明らかに話しかけてるという感じにする)
  2.  名前を呼ぶ(誰に話しかけてるのか明確にする)
  3.  気づいたら話し出すのをちょっと待つ(3秒)

 というのも、男性はなにかをしているときはそれに夢中になっているので音など聞こえない。その状況で「なんとかさんあれやっといて~」と言っても、「はっ? いまなんて?」と訊き返されて二度手間である。たぶん経験があると思う。

 

 あと、これはどうしても言っておかないといけない。男のいうことに深い意味など考えなくていい。女性はすぐに裏を読んでマウンティングされただとかなんだとか、嫌味だろうだとか思うが、男はそんなことを考えていない。「その件はさっき調べておいたよ」と言われて女性は「感謝でもしてほしいんか?」と思うが、男からするとただやりましたという報告であって別に意味はないし、潜在意識では称賛してほしいんだろうとかそういう話でもない。

 

 

 

おまけ

 著者は第五章で、ある紳士に「女は、生まれつき女なのではない。女として育てられるから女なのだ。本来は男と同じようにできているんだよ」と言われて、こう書いている。

 その方は、「僕は女性の理解者ですよ」という文脈で、それをおっしゃった。本来ならば、男と同じように素晴らしい脳を持っているのを知っていますよ、と。

コミュニケーション・ストレス 男女のミゾを科学する (PHP新書)

 「なるほど、著者は女で間違いないな」 一冊を費やした渾身のボケかと思った。とてもおもしろかったです。

 

*1:「感性」という言葉は一般的すぎて誤解されるおそれがあるので、別に造語したほうがいいとにんじんは思う。

*2:つまり女性にとって「聞く」というのは共感前提だが男性にとってはそうではない。だから「聞く」という語彙を使わない方がいいだろう

*3:すぐにマウンティングされたと感じるこの傾向は感情トリガーで説明できているとはまったく思えない。