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にんじんと読む「実在論と知識の自然化(植原亮)」🥕 第二章

第二章 理論的問題

 前章で示した自然種の特徴づけは、それぞれの自然種ごとに程度差を許す。たとえばトラという生物種にあらわれる諸性質は、その種に属するすべての個体に常に出現するわけではない。性質のまとまりとしての安定性には強弱が見られるのである。実在性というのはメカニズムなどを含めた理論的統一性のことだといえるのだが、そうすると実在性にも強弱があることになる。

だが実在性に強弱があるというのはおかしいのではないか。問題があるのはあくまで理論のほうで、実在は実在としてはっきりあり、そこに程度差はないはずだ。

 まず理論的統一性が低いとしよう。ただし、ここで問題になっている統一性の低さは、経験的探究が十分に成熟した段階でのことである。もしも理論がまだまだ未熟のときに統一性が低いとはいっても、研究する余地がまだあるよねという話なだけで、実在性の話とは何の関係もない。まだ一丁目しか行ってないのに町のことがわからないといっているようなものだ。

 成熟した段階での理論的統一性の低さについて、やはりこちらとしては「実在性が低いんだね」と応答するだろう。つまり世界には実在性のいろいろある対象にあふれているわけだ。世界を切り分けるにあたって、スパッときれいにいくものもあれば、いかないものもある。あえて切り分けようとするとそのやり方に規約が入り込むかもしれないが、手の指をどこから指と呼ぶかみたいな話で、そこがどうであろうが指自体の実在に揺らぎはない。《いずれにせよ世界は、おおむね相互に独立している実在的対象によって区切られうるとしても、完全に原子論的な姿をしていると考えるべき理由はないのである》(実在論と知識の自然化: 自然種の一般理論とその応用 p46)。

 だが反論者としてはそもそもスパッと切り分けられないものを実在などといっていいのかという話をしているのだから、これにどう答えればいいのか考えなければならないだろう。そのために「多型実現可能性」を備えた種について考察することにしよう。

 

【多型実現可能性】

 恒常的性質群が恣意的なグループ分けだという批判にこたえるのが「メカニズム」であった。メカニズムは表面的なものを飛び越えて個体同士のつながりを明らかにしてくれる。場合によっては表面的な類似性は乏しくても基底的なメカニズムの点から同じ種だと分類される場合もあるだろう。

 しかし時にはメカニズムが共通していないにも関わらず同種に分類されていたり、複数のメカニズムを基礎にひとつの種が実現されている場合がある。生物器官としての「翼」は物理的な実現の仕方は生物種によって異なり遺伝的な基礎もさまざまでありうる。にもかかわらず、それは「翼」である。また、人間・タコ・イカなどの「目」も相当違いがあるのにやはり「目」と呼ばれている。その他「痛み」、「貨幣」……。以上の事例はどれもメカニズムの異なるにも関わらず同種として分類されている。

 

  •  まずふつうに考えられるのはこうした種を自然種として扱わないことだろう。だがそれは典型的な規約種である「独身者」と、「貨幣」を一緒くたにすることもである。独身者に限って共通して観察される表面的性質は乏しいと思われるが、貨幣に限っては硬貨や紙幣など共通のものが見つかる見込みはある。また独身者については因果的説明があまり成立しないのに対して貨幣に対しては経済学上の多くの法則が成立する。そこで「中間種」という自然種と規約種のあいだの新しい区分を設けることが考えられる。これを中間種説と呼んでおこう。
  •  今度は自然種として扱うパターンがある。メカニズム(諸性質を説明する微細構造)の一致は見られないもののそれ以外の二条件は満たしているわけだから、一定の理論的統一性はあるとみなす。とはいえ、全部の条件を満たしていないのに自然種と言い切ってしまうとなるとさっきまでの話はなんだったのかということにもなる。それについては、自然種であることの必要十分条件のように三条件をみなしてはいけないと応じられる。自然種と規約種のあいだには明確な境界線などなく、連続的につながっているのだ。とはいえ、そうすると今度は実在しているとかしないとかいったところでなんの意味があるんだという話にもなってくる。よほど極端でなければある程度は実在していると言い張るんだからやはりさっきまでの話はなんだったんだということになる。
  •  そういうわけで次は「本当はメカニズムあるんじゃないか」説が出てくる。翼についても、たとえ内的構造として共通のものがないとしても発生上の制約や生態的条件などの外的要因を含めれば捉えられる可能性はある。こうして考え方を広げてみると、単に内的メカニズムがあるだけでなくよそ様と関連したメカニズムがあればあるほど強固な実在性をもつことだろうと思われる。

 

実在論の新展開

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  • 作者:河野勝彦
  • 発売日: 2020/06/19
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