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にんじんと読む「人類最古の哲学(中沢新一・カイエ・ソバージュ一巻)」🥕 はじまりの哲学

はじまりの哲学

神話は人間が最初に考え出した、最古の哲学です。

人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1) (講談社選書メチエ)

  神話は『幼稚で、非合理的で、非科学的で、遅れた世界観をしめしているもの』ではありません。学校教育で教えるのはせいぜい今から150年前ほどしか遡らないモダンな知識にすぎず、神話に比べれば浅い歴史しか持ちません。神話に保存されている知恵と知性を学ばないことは、人間を学ばないのと同じだと思えます。

 ホモ・サピエンスの兄弟ともいえるネアンデルタール人が神話を語っていたかどうかについてははっきりしませんが、彼らの脳は専門的に特化されたものであり、専門間のスムーズなつながりができなかったため、仮に神話があったとしても私たちのものとはまったく姿が違うものだったでしょう。

私たちが今日知っている神話のすべては、異なる認識領域を結びつけ、それらのあいだを流動的に動いていく知性活動を特徴としています。

人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1) (講談社選書メチエ)

  異なる領域に蓄積された知識が自在に流動するニューロン・ネットワークの形成が「組織化」をもたらし、神話や文化を産み落とすことになったのです。思考領域での組織化の結果、「古神話(プロトしんわ)」ができ、それを核として全世界でおびただしい数の神話が形成されはじめました。人間が文字をもったのはここ数千年のことにすぎません。ですからほとんどの神話は口承で伝えられてきました。

 進化論の影響を受け、神話は『人類の幼稚で未開な段階の思考の特徴をしめしている』と考えられていましたが、これを根底から覆したのはクロード・レヴィ=ストロースでした。神話が最古の哲学だというのも、彼によるものです。

  •  神話は物語ですが、おごそかな雰囲気に包まれた特別な空間で語られます。いつでもどこでも、というわけにいかないのはそれが人間の精神の奥深くで働いている過程であるからだと考えられていたからです。とはいえ、現在では神話は図書館に行けば読むことができますが。

 あらゆる神話は目指すものがあります。それは「つながりの回復」「対称性を取り戻す」「両立不可能なものに共生の可能性を探る」ことです。しかし神話はあらゆるものの区別がなくなった世界の実現などは求めません。『非合理の水際に限りなく接近しながら、そこに溺れてしまう』というようなことがないのです―――こういう意味で神話は「はじまりの状態の哲学」と呼べるのではないでしょうか。

 たとえば古事記には人間がなぜ不死を失ったかに関する物語があります。ホノニニギノミコトという神様の物語です。彼は稲の穂に関係する神様で、考古学によれば稲作は朝鮮半島から来た人々によってもたらされました。ホノニニギノミコトは天皇の先祖とされており、この物語はその時代の異民族結婚のことを取り上げたものと考えることができます。

 さて、このホノニニギノミコトは岬でかわいい子(サクヤヒメ)と出会い求婚しますが、彼女の親父であるオオヤマツミ(土着の神)は当時の習慣に従ってサクヤヒメの姉(イワナガヒメ)もホノニニギノミコトにめとらせることにしました。とはいえ、姉のほうは妹に比べて醜かったので、ホノニニギノミコトは妹だけと結婚することにしました。これを知った親父は激怒します。「妹は美しい花を咲かせる植物のように、はらはらと散っていく有限の運命を与えてくれる。しかしそれでは物足りないと思ったからこそ岩石のように朽ち果てることのない生命を贈ろうと思ったのにお前は妹とだけ結婚してしまった!」

 植物(妹)と岩石(姉)の対立によって不死の原因が語られているわけです。人は美しいものに心をひかれてしまいます。枯れてしまう運命にあることを知っていながらも、醜いイワナガヒメと結婚して一体になるなどということができない。だから人間は有限の命しかないのだ、というわけです。