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にんじんと読む「人類史のなかの定住革命(西田正規)」🥕 ①

 

手形動物の頂点に立つ人類 

 霊長類を形態学的に分類することの困難を指して、「特長がないのが特長」と人々にいわしめたが、今西錦司は『生物的自然における生物には、博物館の標本のように、単にけいたいだけの生物はいない。その形態が生活する、あるいは生活する形態が生物である』(p188)と述べた。ここでは脊椎動物門というレベルにおいて、次に霊長目のレベルで、さらにヒト上科のレベルで、彼らの生活形を把握し、人類出現の背景を追う。

 発声・咀嚼・攻撃・採食・運搬・育児・身体清掃・グルーミング・移動に関してみれば、イヌとサルは非常に対照的である。発声・咀嚼・移動については手足で共通であるが、イヌが口を主に使うのに対して、サルは手を用いる。この特徴をもって、イヌは口型、サルは手型傾向の動物と呼ぼう。手型動物は口と首が短く、四肢は長く、太く、可動性が高い傾向が強い。重い四肢は、木に登り、手を様々な仕事に使うことに適し、一方、軽い四肢は高速長距離走行に適す。水中動物の手足は移動のために特殊化されており、口型傾向が強く、イルカやクジラなどは最たるものである。これをもとに脊椎動物を並べてみると、進化には手型化の傾向性が認められる。このような意味において、霊長類は脊椎動物進化の最先端を進む動物であり、人類はその頂点に立つ。

 口型から手型への移行によって目の変化が起こる。目は口ではなく、手を捉えるように進化する。たとえば口型動物の目は、前方に突き出た口吻と対象を同時に視野におさめる。手は視野の外にある。手を視野に入れるためには目か手を移動させるしかないが、脊椎動物の基本体型を維持しつつそれを行うには可能な道も限られる。原始霊長類は首を短いままに手を長くした。それは彼らが樹上で生活していたからであり、長い首は枝をくぐるにも重心を安定させるのにも不便だった。樹の下にいた動物たちはむしろ、首を長くした。そして、これまで使ってきた「口」をうまく使えるように利用した。クマやネコは例外のようだが、彼らは逆に、手で餌をとるようになった結果、器用に樹にのぼれるようになったのだろう。手を便利に使うようになると、突き出た口吻が邪魔になる。視覚を多く使い識別することで脳がの大型化が進む。口が小さく、脳が大きくなると、目は腹側に押し下げられた。これで余計に手がよく見えるようになった。

 次に霊長類を「原猿類」「サル類」「ヒト上科(類人猿)」「ヒト科(人類)」の4つに分けてみてみよう。原猿類からサル類になることで、育児・身体清掃・グルーミングに口を使わなくなった。その仕事は手にまかせるようになった。さらに類人猿になることで、頬袋にモノを詰めて運ぶこともなくなったし、採食はすべて手で行うようになった。そして人類に至り、移動に手を使わなくなる。攻撃にも口は使わない。樹上生活で発達した手型の傾向は、再び地上に降りることによって頂点に達した。

 

身ぶりと言葉 (ちくま学芸文庫)

 

 

人類史のなかの定住革命 (講談社学術文庫)

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