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にんじんと読む「統計学を哲学する(大塚淳)」🥕 第二章②

carrot-lanthanum0812.hatenablog.com

第二章 ベイズ統計(②)

 哲学的認識論epistemologyの主要な問いは「知識とは何か」であり、これはプラトン以来、正当化された真なる信念だと受け入れられてきた。真なる信念であるだけでは駄目なのは、偶然そうなったというときに、たとえばこのクジが当たりだと知っていたとはいえないからである。つまりまぐれ当たりされないように正当化という概念を持って来たのである。

 特に科学的知識とはなにかという問題になると難しいが、「正当化」ということが重要である。統計学はこの正当化のプロセスを引き受けている。だが一体どのような意味で正当化できているのだろう。正当化するとはどのようなことなのか。ここには内在主義=信念はすでに正当化された信念からの妥当な推論により導かれることによってのみ正当化される、外在主義=何らかの客観的プロセスによりその正しさが担保されるという代表的な立場があるが、内在主義的認識論がベイズ主義を特徴づけることを説明しよう。ただし、ベイズ主義を選べば常に内在主義を採らなければならないわけではない。

ベイズ主義は内在主義は類似した正当化概念を有し、また同様の困難を抱えているということを示すこと、そしてそれによってベイズ統計の認識論的な側面を浮かび上がらせることが主眼である。

統計学を哲学する

 内在主義は、当該信念を有している当人がその理由ないし証拠をしっかり把握しているとき正当化された知識とみなす。内在主義者は正当化を主体の有する信念間の関係性として理解する。つまりそれを根拠づける別の信念を主体が有している。この根拠づけのためにはもちろん推論が働いていなければならないが、これもまたもちろん、いつも演繹的に導出されるわけではない。必然的ではなく、蓋然的な推論もありうるのである。そしてベイズの定理をその推論規則として考えるのは極めて自然なことである。ここで思い起こすのは、ベイズ主義は主に主観主義つまり確率を信念の度合いとして見ていたことである。

 さて、このように定義された「正当化」はあくまで定義に過ぎない。問題はこの定義がうまく働くかどうかである。つまり、まぐれあたりを防ぐかどうかである。哲学者は謙虚に正当化と確実性を区別するが、それにしても正当化されるからには何らかの意味において真理へと我々を導いている真理促進的truth-conductiveな役割が求められている。だからここで問題になるのは、ここで得られる推論関係が所詮「信念」の問題であり、世界とは関係なさそうに見えるところである。たとえばいくら前提が意味不明なトンチンカンなものでも、推論自体が正当だとされてしまう場合がある(月はブルーチーズでできている、ゆえに……)。その前提の正しさを得るためにはまた正当化が必要であり、そのまた正当化が、と以下同様にくり返し、無限に正当化を繰り返すことになる。よって内在主義者が真理促進性を示すにはこの遡行問題を解決しなければならない。そしてやはり、ベイズ主義にも同様の困難が生じる。

 カール・ポパーもやはりこの点を問題にして、世界の客観的構造を探求する科学にはそぐわないと断じた。ベイズ主義はこれに対して、何度も何度も正当化プロセスを繰り返すことで応じた。おかしなものが混じっていても、最終的には事後分布が真なるものに近づいていくとしたのである。つまり、大数の法則というIDD条件が与えた究極の保証を根拠としたものであるが、前にも指摘したように現実的な選択肢ではない。そこで別の応答として、推論の前提であるところの事前分布などを何らかの仕方で正当化するためにいろいろの””まっとう””だと思われる原理に訴えかけるというものがある。とにかく前提をなんとか今あるデータに即してどの程度妥当であるかを測ろうとしているのであるが、もはやどのような意味において正当化になっているのかが明らかではない。

 これは内在主義の本質的な困難でもある。彼らは正当化のプロセスを主体にとって参照可能な内的リソースにのみ基づけようとする。この戦略は内的と外的をいかに結び付けるかという問題に直面する。彼らは事前分布やデータを「所与」のものとして扱い、正当化を拒むことによってしか、この正当化を完結させることはできない。だがそれを拒めば、実際の世界のあり方を正しく捉えられているかという問題にはまったく答えられないことになる。

 

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