日本語の文法
言葉の使い方が移り変わる以上、文法もまた移り変わる。また、その時代の文法を構築するにあたってもさまざまな違いが生まれる。大まかに分けると、いわゆる古文などとの接続を意識した伝統的な文法〈国語文法〉と、外国人などに日本語を教育する際に使われる古文との接続を排した〈日本語文法〉とがある。
〈日本語文法〉概説
日本語文はたった三種類しかない - 主語は重要ではない
動詞文と形容詞文と名詞文、この三つしかない。例えば「こたつでみかんを食べる」は動詞文で、「俺がバットマンだ」は名詞文、そして「あの花は美しい」「なんだか入あっちが賑やかだ」はそれぞれ形容詞文ということになる。後者はいわゆる形容動詞などと呼ばれるものであるが、〈日本語文法〉では””ナ形容詞””として一括される。前者は””イ形容詞””である。動詞、形容詞、名詞をそれぞれ””述語””といい、「こたつで」とか「みかんを」とか、その他のものを””成分””という。ちなみに「親父の尻は」は「親父の」「尻は」ではなく、「親父の尻は」で一つの成分となるので注意。
国語文法においては「俺がバットマンだ」などというとき、「俺が」が主語と呼ばれ述語とのつながりによって文が構造を持つが、日本語文法においては主語をこのように特別扱いせず、他と並んですべて””成分””と言い表す対等なものになっている。もちろん「俺が」バットマンなのでその意味的な重要性は疑いないところだが、文法的にはそれほど重要なものではない。
成分と述語を結ぶ「格関係」
単語を並べても意味が通らないのが日本語である。そこに合計9つの”格助詞”というボルトが入り込むことで、意味を掴むことができる。本に書いてある例だが「ティジュカでジョキアンがフェジョンをシキンニョと食べた」という文は、半角文字の単語の意味を知らなくても、格助詞によってそれがなんであるか、述語とどういう関係にあるのか把握することができる。
ガ格に始まり、ヲ、ニ、デ、ト、ヘ、カラ、ヨリ、マデ
この合計9つが格助詞であり、「鬼までが夜からデート(ヲ・ニ・マデ・ガ・ヨリ・カラ・デ・ヘ・ト)」と記憶する。
成分には述語との関係において省いてもいい”随意成分”と、省くことのできない”必須成分”がある。これは述語に応じて決まっており、たとえば「食べた」というのは「ガ」と「ヲ」という成分を省いてしまうと文として成立しなくなる。そしてこの必要最小限の組み合わせのことを”文型”と呼び、述語に応じていくつかのパターンに分類できる。
- 動詞 ~ガ、~ガ~ヲ、~ガ~ニ、~ガ~ト、~ガ~ニ~ヲ(5つ)
- イ形容詞 ~ガ、~ガ~ニ(2つ)
- ナ形容詞 ~ガ、~ガ~ニ(2つ)
- 名詞 名詞+だ(1つ)
日本語文には二つの階層がある
「きっと今晩雨が降るにちがいない」という文章には「きっと~ちがいない」という部分と、「今晩雨が降る」という部分がある。前者を”ムード”、後者を”コト”という。日本語文はコトで事実を伝え、ムードで話者の気持ちを言い表す。「あいつがバットマンだなんてありえない」というのもやはり、コトとムードから成っている。これまで解説してきたのはすべて”コト”について分析したものだったのである。
そして実は、「~は」という”主語”と呼ばれるものも、実は”ムード”を表す。「~は」は、そこに当てはめられたものを主題として提示し、それをコトによって解説しようとする。
「父親が台所でカレーライスを作った」
⇒ 「台所では、父親がカレーライスを作った」
⇒ 「父親は、台所でカレーライスを作った」
⇒ 「カレーライスは、父親が台所で作った」
原文から何を主題とするかは話者が選ぶのであり、”ムード”と呼べる。