なぜ不安は存在するのか。それはもちろん、「不安を感じる能力がある個体のほうが、危険な状況から逃げ、将来的には同じような状況を回避できる可能性が高いから」だろう。病的なのは、不安すぎるのと不安じゃなさすぎることだ。
不安すぎるのはわかりやすい。不安がなさすぎるのは「ハイポフォビア」と呼ばれている。ハイポフォビアは深刻な障害で命にかかわるが、だれもほとんど治療しようと思わない。というのも、ハイポフォビアの人が自らのハイポフォビアを心配して受診するなどありえないからだ。
パニック発作は重篤なリスク回避を目指す。ちょっとでもモワッとしていたら火事だと判断して部屋を水浸しにするわけだ。それによって全焼するリスクを回避している。これと同様に、なんにもなくてもともかく嘔吐感が出てくる。とはいえ、こんなオフィスで仕事はできない。明らかにパニック発作は「誤報」である。しかし同時に、不安に対する人体の正常な反応ではある。この不必要だが正常な反応という認識は、パニック障害を持っている人が自らを理解するうえで役立つ。彼らは火事の兆候をさがしてしまい、普通には関係のなさそうなことでも部屋を水浸しにしてしまう。それが「外に出たらパニックになってしまう」といった恐怖に繋がっていく。