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Phenomenology is explanatory: Science and metascience(Heath Williams&Thomas Byrne, 2023)を読む

INTRODUCTION

 It seems that, if one could be sure about anything concerning Husserl's conception of phenomenology in 1901 it is this: it is not
explanatory, because it does not deal with material causes and is instead descriptive.
 1901年当時のフッサール現象学概念について、もし何か確かなことが言えるのだとすれば、それは次の点だと思われてきた――すなわち、それは物的原因を扱わず、代わりに記述を行うがゆえに、説明的ではない、ということである。

Phenomenology is explanatory: Science and metascience
(Heath Williams&Thomas Byrne, 2023)p.1170

 これはメルロ=ポンティ含め、多くの現象学者に受け入れられている。だが実際のところ、何をして、何をしないことなのだろう? 理論の化学的価値はその説明力にあるというのに、彼は説明をしないというのか?

EXPLANATION

Three tiers of science

 フッサールの区別によると、標準的な科学には三層ある。

  1.  the concrete sciences 時空内の個別的・具体的出来事や対象(個々の運動、知覚事例、生体の振る舞い等)

  2.  the nomological sciences 自然や心的領域に成り立つ一般法則や体系(力学法則、心理学的一般化など)

  3.  the a priori disciplines 数学・幾何学・純粋論理など、経験に依らぬ形式的・本質的構造

Deductive-nomological explanation: First and second tier

 初期フッサールにとって、説明とは二つの前提から結論が導かれる演繹論証の一形態である。第一層(具体科学)に属する諸科学の目標は、「地上および天体の存在の、個別的かつ典型的な個体化の記述」であり、第二層に属する法則科学は、第一層の具体科学が対象とする事物についての諸事実を包摂する法則を定式化する。これにより、 法則 + 記述 ⇒ 当の事象 という形で説明がなされる(科学的説明のDNモデルという)。
 ここには「個別事例」(このムクドリが攻撃的である)と、「一般事例」(ムクドリには群れる傾向がある)の説明が含まれている。

Tier one concrete sciences “reach up” to a corresponding discipline above them in tier two and use the nomological resources they find there in order
to explain the facts they have described.
第一層の具体科学は、上位(第二層)にある対応する学科へと「手を伸ばし」、そこで見いだされる法則資源を用いて、自らが記述した事実を説明するのである。

Phenomenology is explanatory: Science and metascience
(Heath Williams&Thomas Byrne, 2023)p.1172

Interlawful explanation

 だが第二層の一般法則も説明を受けないわけではない。たとえばケプラーの法則万有引力基本法則と力学の基本法則からその説明を受ける。これを一般化して言うと、「一般法則が根本法則によって説明される」ということがある。
 以上から、説明にはいま三種類のタイプがあることがわかった。:

  1.  個別的事実の説明(facts → laws) 一般法則+その場の前提条件(初期条件・状況)から、演繹で当該事実を導く(DNモデル)。

  2.  一般的真理(一般事実)の説明(general facts → laws) 上位の“法則(群)”+補助前提(定義・領域制約・ceteris paribus 条件など) ⇒ 下位の一般命題

  3.  法則の説明=法則間説明(laws → deeper laws) それをより基本的・根本的な法則(Grundgesetze)のもとに包摂し、演繹的に説明する。(より基本的な法則(群)+原理 等 ⇒ 下位の法則)

Explanation within a priori sciences

 法則はさらに序列が上の法則から説明される。だがこの連鎖はどこかで打ち止めになるのか。フッサールはなると考え、著者は「基礎づけ主義」だと言っている(筆者としては、基礎付け主義のレッテルを貼るのは早計だと思う)。それが公理であり、理念的・不可改訂なものである。これにより生じる説明は非経験的で、非因果的なものとなる。たとえば「すべての偶数は2で割り切れる」という公理は、「2より大きい偶数の素数がない」ことを説明するが、原因ではない―――ここに生じる説明の第四のタイプは、公理 ⇒ 定理 という非因果的なものである。

Husserl is a unificationist

 さて、「説明」は演繹的なものであることを見た。だが演繹的だからといって説明であるとは限らない。フッサールが求めるのは統一性である。説明は、単に“結論が前提から出る”ことではなく、多様な事実や下位法則を、より基本的な法則・公理へ“還元”して束ねるときに生じる。フッサールの言い方では、統一を担う命題が「根拠真理(grounds)」で、証明の網(web of proofs)がそれへ遡るとき、私たちは「説明された」と言えるのだ。
 要するに、Aが説明されたといえるのはB⇒Aがいえればいいということではなく、BもまたCに説明され、CもまたDに説明され、最後には公理へと行きついて初めて説明なのだ。大切なのはその体系性である。

PHENOMENOLOGY

Pure logic

 ここまでの三層は標準的な科学の三層であったが、フッサールはこれを統括する第四の層に居る。第四層はいわば標準的な科学で当たり前のように使われている概念を明確化する管制室である。

 第1課題:概念の明確化(Begriffsaufklärung) 科学や論理で使う基本概念(命題・推論・証明・理論・妥当性…)の意味と用法を曖昧さなく整える。
 第2課題:法則の定式化(Gesetzeslehre)  純粋論理領域における公理・純粋法則(推論の規則・証明の規範・理論構成を制御する一般法則)を提示する。
 第3課題:マテーシス・ウニウェルサリス(Mathesis Universalis) 理論一般の「可能な形式」とその合法則的連関を、メタ科学として体系化(理論の形式=命題形式・推論形式・証明形式・学科形式の総覧)。

The third, arithmetic task of pure logic: Mathesis Universalis

 まず第三課題から。
 命題・推論・証明・学科にはそれぞれ形式がある。それを演繹でたどり、可能な理論形式を組み立てるのが課題である。それにより、純粋法則(公理)を土台に、「この形式は妥当」「この組合せは不可」のように形式の有効性を判定できる。
 この課題は完全に数理論理学者の仕事!

The first, philosophical task of pure logic: Basic concepts and meaning-forms

 次に第一課題。公理はいかなるさらなる前提にも依拠しないため、もはや演繹的証明を与えることはできない。公理は証明されるのでも説明されるのでもなく、明確化されうるだけである。概念は演繹によっては明確化できない。やれることは、ある語を取り上げ、その語が取りうる可能な意味を列挙し、それらの異なる諸意味の批判的評価に従事することである。
 この課題によって得られるものは説明ではない。

The second task of pure logic: Concept clarification and laws

He thinks that once a concept has been clearly delimited via intuition during the first task of pure logic, then—during the second task—its necessary and sufficient conditions and its relationship to other concepts (e.g., which other concepts it subsumes) could subsequently be articulated in non-ambiguous lawful propositions.
彼の考えでは、純粋論理の第一課題で直観を通してある概念が明確に画定されたなら、第二課題では、その概念の必要条件・十分条件や他の概念との関係(たとえば、どの概念を包摂するか)を、曖昧さのない法的命題として後続的に定式化できる。

Phenomenology is explanatory: Science and metascience
(Heath Williams&Thomas Byrne, 2023)p.1179

 「哲学者の課題は……支配的な基礎概念[第一課題]と基礎法則[第二課題]の本質と意味に関する補完的反省にある」と言っているので、これが哲学者の仕事である。これは要するに、第1課題(概念の明確化)で“何を指す概念か”を一義化したら、第2課題ではその概念についての本質的な成り立ちを、必要条件/十分条件や包含・関係として法則(本質法則)にまとめる――という段取りになる。

 と、すると。
 記述(第1課題)だけなら非説明的でも、法則の定式化(第2課題)まで踏み込む現象学は、フッサール自身の基準で説明科学に近づくのではないか?

Relation between the second and the third task

 しかも、である。
 第2課題の定式化は、そのまま第3課題の出発点(公理・規制法則)になる。すなわち、第1+第2課題で決まる概念と法則が、理論を理論たらしめる形式的根拠(可能性の条件)を提供する。すると、現象学的作業(概念の明確化→法則化)が説明的メタ科学土台を直接つくっていることになる!

 これまでの現象学理解では、現象学は記述と明確化に努め、説明するほうは科学の側に任せてきた。だが現象学が法則まで与え、公理として説明を駆動し始めると言う。つまり、現象学は単なるリスト作りではなく、科学の基準にさえも着手するところのメタ科学なのである。

ORIGINAL THESIS

Phenomenology is de facto explanatory

 主張「現象学は、事実上、説明的である」

A new defense of phenomenology as not explanatory

 まず確認しておくと、現象学の第一課題が説明的でないというのはたしかなことである。なぜならそれは論証ではないのだから。だが第二課題までも説明的でないと認められなければ、現象学が説明的でないという話にはならない。
 フッサールは間違いなく、概念明確化はするが第三課題は数学者に任せると言っているし、第二課題もやると言っている。第二課題をやる、つまり法則を定式化しながら説明的でないと言っている。すると、もし非説明的だとなおも言いたいなら、数学者に任せるのと同じように、「現象学者はそれを用いない」とでも言わなければなるまい。

The inadequacy of the “articulating but not employing” defense

 だがそんな弁護が十分なはずがない。

An argument from analogy

 この弁護は 法則を用いる学/法則を定式化する学 の区別に基づいている。
 ところで第一層の科学の本務は現象を記述することではあるが、説明も行う。それは第二層の法則を諸条件に当てはめ、現象を説明するのだ。第二層自身は「法則を与え、法則間で統一・導出する」から説明的であるといえる。つまりは法則を用いる学/法則を定式化する学も説明的である。

 この議論をもう少し整理してみることにしよう。:

 ある営みが説明的(explanatory)であるとは、少なくとも次の二条件を満たすこと:

  1. DN条件(演繹—法則):一般法則/公理(L)と適切な前提(条件・橋渡し原理等; C)から、被説明項(E)を演繹的に導出できる。
     (型:L + C ⇒ E。Eは個別事実でも一般命題でも下位法則でもよい)

  2. 統一条件(unification):その枠組みが多様な事実や下位規則を少数の原理へ束ねる機能を持つ(「根拠」へ遡らせる)。

Claim①:第一層は説明的である。

  • 記述だけをしている段階は非説明的。

  • しかし、上位の第2層の法則(L)を借りて、観測された初期・境界条件(C)を当て込み、対象事実(E)を導出すればDN条件を満たす。

  • さらに、多くの個別事実を共通法則のもとに包摂するので統一条件にも資する。
    → よって、第1層は「法則の適用(use)」に成功している限り説明的と認められる。
    (逆に、純粋記述や相関の列挙に止まるときは非説明的。)

Claim②:第二層は説明的である。

  • 法則間説明(inter-lawful):下位法則や一般命題(E)を、より基本的な法則(L)と橋渡し前提(C)から導出することでDN条件を満たす(例:ケプラー法則 ⇐ ニュートン力学万有引力)。特定事例E(個別出来事)を直接扱わなくても、一般命題や下位法則そのものを説明対象にできる!

  • 統一の中核:多様な現象・下位規則を少数の基礎法則へ還元・統合することで統一条件を満たす。
    → よって、第2層は「法則の定式化(articulation)と上位化」によって説明的

 ゆえに両方ともが説明的。

The argument from interlawful explanation

 あらためて、第二課題とは、第1課題で一義化された基礎概念に基づき、その概念が成り立つ本質的条件と概念間の法的関係を、曖昧さなく法則命題として確定することを目的とする。具体的には明確化された諸概念の必要条件十分条件、同値条件不可能性条件排他条件、包摂/従属(サブサンプション)含意整合/不整合の関係を定式化し、その諸法則をより基礎的な法則によって根拠づけ、公理を探り出す。

 つまりは、単なる定式化だけでなく、法則間説明が中に含まれている。ゆえに説明的である。

CONCLUSION

手短にまとめれば、本稿は現象学哲学に二つの貢献をなす。第一に、現象学は説明的ではないというフッサールの主張を理解するための、従来のすべての解釈と一線を画す独自の見方を提示した。第二に、その結論は――正しく理解するなら――維持不能であることを示した。

Phenomenology is explanatory: Science and metascience
(Heath Williams&Thomas Byrne, 2023)p.1184