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にんじんと読む「ゲーム理論の見方・考え方」 第一章・第二章

第一章 ゲーム理論の誕生

 ゲーム理論は、フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンの共同研究の成果『ゲーム理論と経済行動』(1944年)にはじまる、自由で自律的なプレイヤーの合理的な意思決定を研究する数学の分野である。経済というさまざまな欲求のぶつかり合う場に持ち込まれた道具であり、いわば「目的」と強く関連付けられる。だが経済学・社会学はもちろん、生物進化においても適応度を求める自然選択の動きを捉えることで生物学にも適用される。

第二章 意思決定

 現実社会における人間の意志決定を分析するためには「やりたいことをやる」という程度の説明ではなんの意味もないため、より正確な分析が必要になる。この基礎となるのが『基礎効用理論』で、リスクのある選択対象に対する人間の好みについての理論である。

  1.  選択対象はお好みの順番に一列に並べることができる。
  2.  2つの選択対象A,B(B<A)と、確率pでAがもらえて1-pでBがもらえるくじがあるとする。このとき、B<くじ<Aという選好になる。
  3.  3つの選択対象A,B,C(C<B<A)とする。このとき、∃p(0≦p≦1) s.t. pでA、1-pでCがもらえるくじ よりBを好む(くじ<B)。また、∃q(0≦q≦1) s.t. qでA、1-pでCがもらえるくじはBより好まれる(B<くじ)

 二番目は独立性の公理と呼ばれる。B<Aとしよう。上にいうくじとは、中身が謎の箱だと思えばよい。この謎の箱がA,Bと比較してどっちが好まれるかを示している。結果としてはB<クジ<Aとなる。実際、もし箱の中身がAならば、その箱をBより好むだろうしAと箱は同じぐらい好まれる。逆に箱の中身がBならば、その箱よりもAのほうが好みだろうしBと同じぐらい好まれる。つまり中身がどうであろうが、B<クジ<Aなのである。たとえそのpがどんな確率であったとしても。

 三番目は連続性の公理と呼ばれる。C<B<Aとしよう。確率0でAが出て確率1でCが出る「謎の箱」は、間違いなくCである。同じように確立1でAが出て確率0でCが出る「謎の箱」は、間違いなくAである。前者の場合p=0、後者の場合p=1だ。そこで一般に確率pでAが出て確率0でCが出る謎の箱X(p)を考えよう。もしこのpが大きいならCはもちろん、Bよりも好みになっていくだろうし、このpが小さいならAはもちろん、Bよりも好みではなくなっていくにちがいない。つまりX(p)に対する好みはpに応じて連続的に変化していくと考えるのは自然なことである。これを公理にしたものがこれである。

 この三つの公理は次の定理を証明する。:

期待効用の定理

 意思決定主体の選好順序が公理を満たすならば、各選択対象に「効用の値」がつけられ、くじに対する選好順序はくじに含まれる選択対象の効用の期待値の大小と一致する。

 

 こんなことを言われても曖昧過ぎてわからないという方のために、数学的に定式化しておこう。Xを有限集合とし、クジ(あるいは謎の箱)を関数L:X→Rへの関数とする。このときLは確率になっているとする。このようなクジをすべて集めた集合をPと置くことにする。さらに、

 L,L'∈Pに対して、L≦L' ⇔def LよりL'をより好む

 という二項関係がP上に定義されているとする。私たちが問題にしているのはL≦L'のときにU(L)≦U(L')としてくれるような関数U:P→Rが存在するかどうかである。これは一般には成り立たない。これを成り立たせる条件が次の三つ。

  1.  任意のL,L'には大小関係があり(全順序)、さらにLよりL'が好ましく、L'よりL''が好ましいなら、LよりL''が好ましい
  2.  O(L)={c∈[0,1]:cL’+(1-c)L'’≧L}、Q(L)={c∈[0,1]:cL’+(1-c)L'’≦L}が閉集合(L,L',L''∈P)
  3.  L’≦Lならば、cL'+(1-c)L''≦cL+(1-c)L'’

 さて、効用の値が定まったとしよう。そこで謎の箱に対しては、期待値によって選択を決めると仮定することにする(期待効用最大化原理)。このような効用はフォン・ノイマン=モルゲンシュテルン効用といい、「大小関係さえ成り立てば好きにつけてもいいよ」というようなものではない。

 いずれにせよ、問題はこのように組み立てて私たちの選択がうまく説明できるかどうかにある。そしておおかた予想される通り、実験的にはそうならない。心理学によれば、認知システムは不確実性や確率の概念を理解することが困難であり、多くの認知バイアスを持つ。ありのままの意志決定を分析するためにはそのための理論がさらに必要な所以である。