原稿用紙一枚で書く日記 #39
教育実習に行ったときのことである。音楽教師を志望する女性がいて、実習の打ち合わせの時に耳にしたところによれば、なんでも有名な音楽大学に通ってピアノを学んでいるということだった。
授業はもちろん音楽室で行われた。自分もそれを参観することになった。授業の内容はヴィヴァルディの四季『春』だった。昔の自分たちがそうであったように、そこにいた生徒たちもまた音楽の授業にはあまり注意を払ってはいないようだったが、ぼんやりとして聞くしかなかったクラシックに「構造」を与える良い授業だった。彼女は最後に『春』を演奏した。
だというのに、彼女は授業後元気がなかった。ぼくが反省会で「音大にいる人の授業だ」と言ったら「音大生だから当たり前だ」と笑われた。彼女は自分のことを普通だと思っている。彼女は、授業で一度も楽譜を見ていなかった。すごいことなのに、自分の強みに気づいていない。