よわいそんざい #11
人間は弱い存在だから、と云う。いったい何より弱いのか、じゃあ何が人間より強いのか、どういう点で弱いのか、本人によくよく聞いてみなければわからないのだけれど、たしかに「弱いよね」と言われると、確かにねえ、という気分になる。日々、なにかと打たれ弱い自分を見ていると特にそうだ。この頃はレジリエンスなどといって、心の回復力が取り沙汰される。いろいろ改善の手立てが模索されているのはいいことだ。
一方、過激な人間弱い存在論者に言わせれば、そんな対策が必要であること自体が人間の弱さの証拠なのかもしれない。まぁそうだとすると、弱くない存在なんて見当たらないので、ことさら弱い弱いということもないのだが。くわえて、こちらの場合は、それを改善する手立てはまったくない。
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まんなからへんがちょうどいい #12
極端はわかりやすい。わかりやすいと簡便だから、そちらを志向するのも無理からぬことである。それに、どっちかを目指さないと何も考えられないのだから仕様がない。坂道に上るか下るかしかないように、動くためにはとりあえず方向というのが必要になる。人間にも慣性が働くのか、登ってみるともう下る気にはなれない。人が極端に走りやすくなるのは、AかAでないかという自然発生してくる二極と、慣性に由来するのかもしれない。
快感は大変よろしいもので、……大体「快」感なんて名前なんだからよろしくないほうがどうかしている。ところが、快感坂を登りすぎると崖になっているんだから言葉ほど当てにならないものはない。薬物やって体壊して快楽を手にしている人より、ぼちぼち生きてたまに楽しいぐらいの人がいい場所に立っている。お金持ちが「お金あってもねえ……」と言い出すのは自慢ばかりとも言えない。
みんなで歩くこと #13
詳しくは忘れてしまったが、アフリカかどこかのことわざに、大体こんな意味のものがある。「急ぎたいなら独りで行けよ。遠くまで行きたいならみんなで行けよ」まことに深い言葉である。深い言葉なのに忘れてしまったのが申し訳ないが、ともかく、ここには個人と集団がうまく表れているように思う。論理的に正しいかはわからないが、にんじんとしてはここに「みんなで行くと遅くなるけど、一人よりは遠くに行けるぜ」という意味をとる。そうか、たしかにみんなでやるとごちゃごちゃしてちっとも進まない。政治だろうが学問だろうが仕事だろうが、あぁ、……となんだか深く納得してしまって言葉もなくなった。たまには遠出したいものだ。
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実は暇なんじゃない? #14
忙しければ忙しいほど人間の幸福度は増すらしい。自分の好きなことで忙しければそりゃ幸福度も増すだろう、と思いつつ。たしかに暇は退屈に結びつきやすい。何をしてよいやらわからず気づいたら一日が終わっているみたいなことを、これまでに何度経験しただろう。
数年前に行った教育実習はとても忙しかった。すごいストレスが毎日起こっていたけれど、一方でなんでもかんでも目まぐるしく過ぎていくせいで大抵のことは気にならなかった。そのときも少し思った。「もしかして、嫌なことを考えたりするのって、暇だからってのもあるのでは?」もちろんそればかりでもない。今でも思い出す生徒と不満そうな表情はある。でもいつもなら気にしているようなことも、今はまったく思い出せない。暇だから変なことを考える、というのは間違いなくあると思う。
ユートピアを目指す #15
ありのままで生きるというのはよく言われる。だけど、ありのままってなんなのか、いまいちよくわからない。たとえば上司に「鬱陶しいな」と口にしたら問題になるじゃないか――いやいや、ありのままというのは全部口にしろということじゃないんだ。そう考えていてもいいってことさ――そんな声が聞こえる。それに対してきっとこう返事をしたくなるだろう。「それじゃなんの解決にもならない!」
つまり「解決」をしなければならないと考えている。それはあるべき姿ではないからだ。上司が寛容となった世界をユートピアと呼べば、少ししっくり来る。ありのままで生きるというのは、ユートピアで生きない、ということかもしれない。
健康な人も、精密に検査すれば体のどこかに病気が見られるという。どこも痛まないのに、その病気のために一日の大半を治療に使う。すべてはユートピアのため。
素晴らしき解決法 #16
「ほら、これ落とし物」前に寄ったガソリンスタンドで財布を落としたらしい。目の前のそいつは、わざわざ追いかけて来てそれを届けてくれた。「ありがとう」と言って受取り、なんでもないみたいに去っていくそいつを見ながら、……もしかしたらこう思うかもしれない―――一体、何が目的なんだ? まさか財布から数千円抜き取られてるんじゃないか。それでこうやって恩を着せて、犯罪の隠ぺいをはかっているか、さらなり利得(謝礼)を期待しているんじゃないか――そう考えるのが、なんと合理的だろうか。世の中は利得か、損失か。奴の行為も利得に基づいているに、違いない。
難病の除去手術が終わった医者が出てきてこう言った。「成功です。ただし患者は死にました」難病は消えた。二度と再発することはない。ただし、患者は死んでしまったが。最も簡単な解決策が、さらなる問題を生み出す。
節約しても散財 #17
お米は10kgでだいたい3000円ほど。一合が180gだから、一日2合で大体一か月分になる。これをなんとか二か月分にしたくて、一日1合で済ませたくなった。そこで一食はご飯を炊かず、焼きそばなどで済ませることにした。しばらくほどほどのソースを使っていたが欲が出てもっと安いソースを使った。すると腹を下し、夜中ずっと苦しんだ。しかもマヨネーズも具材もソースにもお金がかかる。不健康だわ高いだわでお米を節約しようとしたのが随分裏目に出たものだ――という「節約しても散財」体験を、一人暮らし民ならば一度はしたことがあるだろう。
なるべくお安く済ませよう生活をしていると、「安かろう悪かろう」が身に染みる。お金は不幸を斥けるが幸福は呼ばない、と誰かが言っていたのを思い出した。そういうわけで今はお米を食べている。
二者択一の選ばせ方 #18
AかBかのどちらかを目の前にしたとする。相手に好きなほうを選ばせるにはどうすればいいか、というテーマである。普通に考えればそんなことは不可能だが、マーケティングなどではけっこう有名な話だそうだ。完璧に選ばせることはできないが、それをするのとしないのとでは統計的に有意な差が出る。原理としては、人間は選択をする際に他のモノと比較せずにはいられない、ということだそうだ。
雑誌の購読について「電子版57ドル」「印刷版+電子版125ドル」というのがあった。これを普通に提示したところ、安いほうの57ドルを選ぶ人が多かった。けれどもこの二つに「印刷版125ドル」を追加した途端、「印刷版+電子版」を購読する人が増えたのである。追加のおかげで、その選択が賢いように見えたのだ。
得られる教訓はひとつ。どっちか、で迷ったときはこれを思い出すこと。
予想どおりに不合理―行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」
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考えるのは疲れる #19
二重過程理論というのを知った。人間の意思決定に関わる一つのモデルである。システム1は素早く自動的に印象を形成し、システム2はシステム1を監督する。いわば理性がシステム2にあたるわけだ。熟考するシステム、それがシステム2である。このことはダニエル・カーネマンのファスト&スローという本に詳しい。システム2は最小限にしか動かない。「やらなくてもいいことは、やらない。やるべきことなら手短に」どこかで聞いたことがある気がする。システム2はすぐに疲弊する。何かに能動的に注意を向け続けるのはとても難しい。
それでにんじんは思い切って、特になにも考えずに行動することにした。もちろん、熟考する時間を設けた上で。そうしたらなんだか、気持ちが楽になった。やるべきことは、昨晩の自分がメモしておいてくれているので、それさえやればあとはフリー。思いついたらメモして、夜の熟考に手渡す*1。
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労働パラドクス #20
いろいろな種類の労働者を集めて実験をした人がいる。「フロー」で有名な心理学者、チクセントミハイである。にんじん(そして恐らくにんブロ読者も)は普段、仕事などこりごりで、退勤するたびに二度とあそこへは戻りたくないと思うものである。しかし彼の実験が明らかにしたことは、我々は仕事中のほうが満足度が高く、余暇のあいだのほうが不安でいる、ということだ。にんじんたちはたしかに『暇』を好んでいるはずなのに。チクセントミハイは言う。「現実の状況に対するこうした盲目性は、個人の幸福にとっても社会の健全性にとっても不幸な結果をもたらすだろう」
この結果は少なくとも、働きたくない、という希望の言い換えを要求する。働きたくないのではなく「こんな働き方をしたくない」が近い。ではどう働きたいのか? 考えるべきなのは働かない方法ではなく、働く方法かもしれない。
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*1:S1とS2の使い分けなど意識的にできるわざではないので、比喩