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にんじんと🥕 夏目漱石「三四郎」を読み進める 第一章(前) 女

第一章(前) 女

 舞台は明治41年、西暦1908年。主人公の小川三四郎は福岡県京都(ミヤコ)郡真崎村出身*1で、東京帝国大学に入学が決まり、上京する汽車の中にいる。三四郎はまず福岡から門司(モジ:北九州)に向かい、連絡船に乗って下関(シモノセキ)へ入りそこから汽車に乗った*2

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三四郎の通りすぎた駅。下関から】

山陽鉄道 - Wikipedia

  神戸駅まで着いた三四郎は、そこから東海道本線へ移り(明治28年には既に山陽鉄道と直通になっている)。新橋駅を目指す。新橋駅は当時の東海道本線の始点であった。

 女が三四郎の乗る車室に入って来たのは京都駅である。彼女は少なくとも広島へ行ったのだが、京都で途中下車しており用を済ませてあらためて乗って来たのだ。この汽車が名古屋留まりでもうすぐ名古屋に着く予定なのだが、予定より四十分も遅れてしまう。もともとの到着時刻は午後9時30分。三四郎は女といっしょに宿屋をさがして名古屋の町をうろうろする。

 女と一晩過ごす。女は名古屋駅からは三重県四日市に向かう鉄道「関西線」に乗るから、東海道本線をさらに進む三四郎とはここでお別れである。

【にんじん読書】

 小説である以上、想像するしかないのだが三四郎は恐らく四列シートに座っている。とろんとした目をあけると目の前に座っていたじじいと女がなにか話している。このじいさんは京都ー名古屋間で乗って来た「田舎者」なのだが、すぐあとに名古屋まではじきだと話しているところを見ると、このじいさんは岐阜県あたりで列車に乗ったのではないか(いまと当時で東海道本線がどう変わったのかはわからないが)。

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 女は里へ帰るつもりをしている。というのも大連へ出稼ぎに行った夫からのたよりも仕送りもないからである。じいさんにそのエピソードを語り、じいさんが汽車をおりていったあと、女は車室から出て行った。三四郎は便所だろうと思う。彼は起きているあいだじゅう、女のほうをちらちら見ている。

 三四郎は窓際に座っていたのだろう。女はもともとちょっとずれて座っていたに違いない。彼女は席に帰ってくると、今度は正面に座ったものだから、三四郎は驚いた。それでじっと外なんか見てる。三四郎は弁当をむしゃむしゃ食っていたが、食べ終わったので窓から弁当を捨ててしまう。なんてやつだ。現代で考えるととんでもないことをしでかす三四郎の悪行が災いして、窓の外に首を出していた女の顔面に弁当が直撃してしまう。もしかすると汁がかかったとかそんなことだけかもしれない。「ごめんなさい」「いいえ」と会話がある。女は額をぬぐっている。

 にんじんなら間違いなく席を立つところだが、三四郎は座ったままでいる。これぐらいドシンと構えたいもんだ。女は何を思ったのか、弁当ぶつけられたにもかかわらず名古屋で三四郎と宿をともにしたいと言い出す。降車後、断り切れずなぁなぁで歩き出す三四郎。外はすっかり暗くなっている。でも三四郎からするとちょっと助かったかもしれない。彼は地方でエリートだったから東大まで行くのだが、地方を出てみればなんでもない田舎者のひとりにすぎない。あれだけ誇らしかった学生帽も頼りなく、女からどういう目でみられているかを気にしている。

 三四郎は女の身元など知らない。そんな女と宿屋ではいっしょの部屋にされてしまった。落ち着かず、日記も手につかない。風呂に入っていたら女も入ってきて背中を追流ししましょうかなどといってくる。ライトノベルならここらへんで挿絵がくるところだが、半ページでサービスシーンは終わる。まぁ女がどういう格好なのかはわからない。たぶん、三四郎はそちらを一切見なかったのだろう。

 ところでライトノベルとかアニメとかでラッキースケベに慣れているわれわれにとっては、女が風呂に入ってこようがなにしようが別に当たり前のイベントとしてスルーしてしまうのだが、一体全体この女は何を考えているのだろうか。どうも挙動がおかしい。会ったその日にきれいめの女と一夜をともにするってどういうことなんだ。で、この女は別れ際にとんでもないことをいう。「あなたはよっぽど度胸のない方ですね」しかもにやりと笑うのだ。三四郎はわたわたと慌てながら、汽車が出発し、本をひっぱりだして、落ち着いてからようやく考え出す。

二十三年の弱点が一度に露見したような心持であった。親でもああ旨く言い中てるものではない。……

 三四郎が適当に開いていたベーコンの本はなんと23ページ。ところで三四郎はこのあと輝かしい自分の未来をいろいろ妄想して元気になると、本を閉じてしまう。三四郎は反省とかそういうことをしない。「あぁ~嫌だったわ~アァ~ン」とは思うのだが、すぐに別のことが頭に浮かぶ。読者はみな三四郎である。

 

学生と読む『三四郎』 (新潮選書)

学生と読む『三四郎』 (新潮選書)

  • 作者:石原 千秋
  • 発売日: 2006/03/16
  • メディア: 単行本
 

 

 

 

*1:真崎村は架空の地名で、京都郡は実在した。漱石の弟子である小宮豊隆の故郷

*2:この鉄道は明治34年開通、明治39年山陽鉄道会社から鉄道国有法によって国有化された