栄養の観点からすれば、「がん」は代謝異常の病気といえる。代謝とは、『生命と維持するために必要なエネルギーを作ったり、筋肉などの組織を作ったりするために、私たちの体内で起こる生化学反応全般』のことである。がんはこの生化学反応を異常にしてしまう。その手法は、化学反応を早める触媒である酵素の働きを狂わせることだ。狂った結果どうなるかというと、代謝が異常に亢進され、食べ物だけじゃなく自分の身体まで削り始める。がん患者は筋肉が細り、体脂肪も減り、あっという間にやせ細る―――がん細胞は栄養を奪う。その栄養を奪う先が食べ物ではなく、「自分の身体」にまで及ぶことが大問題なのだ。栄養障害となり、免疫機能が衰えて、感染症にかかる。だからがん患者は、感染症で死ぬのだ。適切な栄養管理を行なえば人はまだいきいきと生きることができる。本当の終末期には栄養を一切受け付けなくなり、穏やかに亡くなる。
身体を弱らせないためのヒントは、がん細胞がいつも「嫌気性解糖」を行うということだ。
細胞がエネルギーを生み出す方法には「好気性解糖」「嫌気性解糖」の二つがある。酸素を使うか使わないかの違いであり、正常細胞はふつう好気性解糖を行う。また、たとえば有酸素運動をしているときは体内に酸素が十分取り込めており好気性解糖をする。一方、激しい運動を行うと酸素の供給が十分でなく、嫌気性解糖をする―――がん細胞は酸素が十分にあっても、なぜか、嫌気性解糖をすることで知られている。
食事をするシーンを想像しよう。穀類や芋類・豆類・果物などの食品をとると、体内で消化酵素によって代謝されてブドウ糖に変化する。ブドウ糖は血流に乗って全身を巡り、膵臓から分泌されたインスリンの働きで細胞内を訪問する。ブドウ糖はこのなかでピルビン酸というものに変えられることになる(その過程を「解糖系」という)。
酸素が十分に取り込まれている状態では、ブドウ糖は順調にピルビン酸となり、ピルビン酸はミトコンドリア内に取り込まれる。取り込まれた後、酵素によってさらに代謝され、アセチルCoAとなる。この酵素が働くには、酵素の働きをよくする酵素(補酵素)が必要で、たとえばビタミンB1などである。無事アセチルCoAとなったら、「TCAサイクル」という仕組みにのれば、生体のエネルギー通貨たるATPとなる。ATPはピルビン酸を作る過程でも生じるが、ブドウ糖1分子につきATP2分子しか出ない。しかし好気性解糖で「TCAサイクル」に乗ると、ATPが34分子も出る!
一方、嫌気性解糖はといえば、ブドウ糖はミトコンドリアに取り込まれることなく化学変化が進み、乳酸へと変わる。このときATPが2分子生産されるがそれだけである。嫌気性解糖は単純な分だけ反応は早いが、ATPを得るための代謝効率が非常に悪い。
身体を作る材料は、たんぱく質+糖質+脂質である。そしてビタミンB1などの補助を適当に取り入れ、正常細胞に好気性解糖を促すことが基本的な方針となる。
- ビタミンB1がなければ酸素があってもTCAサイクルにのれないし、
- コエンザイムQ10もTCAサイクルで重要な役割を果たす(というか、これがないとATPが作れない)。
- また、がん細胞は脂肪を分解して血中に脂肪酸を溢れさせるが、それをさばくための対策も必要だ。そこで用意する兵隊がL-カルニチンとコエンザイムQ10。がん患者の場合は代謝が異常になっているので血中に溶けだした脂肪酸を利用できない(健康な人にとって、脂肪はエネルギー源である)。
- 嫌気性解糖によって作られた乳酸は肝臓に入り、再びブドウ糖に戻る(「コリサイクル」)が、戻るために6ATPが必要になる。作られていたのは2ATPなので収支としてはマイナスになるのだ。がん細胞は嫌気性解糖をするので、このコリサイクルを行なわれては困る。というわけで利用するのがBCAA(バリン・ロイシン・イソロイシン)やクエン酸で、乳酸をブドウ糖ではなくピルビン酸へと変える。しかも、乳酸を作りづらくもしてくれる。
※がんの場所によっても、取り入れる栄養素を吟味しなければならない。肺がんの場合は呼吸筋を保つ必要があるし、肝がんの場合は肝機能を活性化しないといけない。具体的にどうしていくかを決めるのが「栄養アセスメント」である。