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「数学的な宇宙」第二章:空間での私たちの位置

第二章

 宇宙はどこまで続いているのかといった難しい問題に取り組む前に、まず宇宙よりは小さいが十分デカいものの大きさを知ることから始めよう。

 ここでは地球を完全な球体であると仮定する。夏至の正午にエジプトのシエネで太陽が真上にくること、そしてそこから794km離れたアレクサンドリアでは正午に太陽が真上から南に7.2度ずれた位置にくることから古代ギリシャ人・エラトステネスは7.2度が794kmに対応すると考え、地球の円周が39700kmであると結論した(約40000km)。すると地球の直径は円周を円周率で割った値、およそ1万2700kmであることがわかる。さらに月食、つまり月が地球の影に入って暗くなる現象を調べれば、月が完全に隠れるまでに50分、地球の影から脱するのに200分かかることがわかる。月が隠れ始めて完全に隠れるまでの時間は月の直径の目安になる。再び現れるまでに4倍かかったことから地球の直径に達するまでに四個分の時間がかかっていると考えられるため、月の直径は地球の直径の1/4なのだ(約3200km)。さて、満月の夜に月に向かって腕を伸ばし、爪でちょうど月を隠してしまうことを考える。爪の上部分と月の上部分をつらぬくようにまっすぐ線を引き、下部分同士をつらぬくようにまっすぐ線を引くとここに三角形ができる。月の直径を底辺とする三角形と、爪を底辺とする三角形は相似の関係にあり、いま腕の長さがわかっているので爪と月の直径の比から月を底辺とする三角形の高さ=月までの距離が計算できるのだ(月までの距離は月の直径のおおよそ115倍。正確には38万4400km)。

 当たり前だが、宇宙はこれよりはるかに大きい。基本的には似たような原理で星々までの距離を調べていくが、しかしながら、空間というのは本当にそう見えているほど「まっすぐ」なものなのだろうか。作り出される三角形は平らな紙に書くのと、地球のような丸まった場所に書くのとで大きく性質が変わってしまう。非ユークリッド幾何学の発見は『曲がった二次元面を三番目の次元の存在なしに厳密に定義できる』つまり『曲がった二次元面はそれ自体で存在でき、三次元空間内に埋め込まれている必要もない』ことの発見でもあった。すなわち、私たちの三次元空間も二次元の場合と同様に曲がっている可能性があるのだ。自分たちのいる空間がどんな形をしているかは具体的に三角形を作って、内角の和が180度より大きいのか小さいのかを見ればよい。たとえば地球という球体上では、各々の角度が90度になるように三角形を作ることができる。これを宇宙レベルの三角形にすればいいのだ。

 だが事はそう単純ではない。アインシュタインが明らかにしたように、重力によって空間は捻じ曲がる。極端に大きい三角形を捉えて「180度になる」と突き止めても、その内側ではそれよりもはるかにおおきな値を出す三角形がある(ブラックホールなどがあるとそうなる)。私たちの生きている空間は単純なモデルよりもずっと複雑らしい。宇宙はどこまで続いているのかという質問には「●km!」という以外に「どこまでも」という可能性まである。