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「ことばの意味とはなんだろう」語用論的意味

 ある言語表現が明示的に伝えている意味(明意)を知るためには、そこにある程度推論を交え、肉付けしなければいけない(発展)。

  1.  曖昧性除去:複数の意味をもつ語がどの意味で用いられているか。「bank」→銀行?土手? 「太郎は自転車で逃げる犯人を追った」→どっちが自転車に乗ってる?
  2.  飽和:直示的・指標的語が何を指すのか。 「今日」→いつ? 「あいつは若すぎる」→何をするには若い?
  3.  アドホック概念構築:その場かぎりで用いられている語の使われ方はなにか。 「今日は飲むのをやめておこう」→ここでいう飲むとは液体一般ではなく、酒の意味。この場限りで(adohoc)このような概念が構築されている。「あいつの顔は正方形だ」→顔の形のこと
  4.  自由補強:言語形式に縛られず発話を解釈する。「朝食はもう食べたよ」→午前中に尋ねてきた来客に対して「何か召し上がりますか」と尋ねたときの回答だとすると、食べたのは十年前の朝食ではなく、もちろん今日の話だろう。「死ぬわけないじゃん」→転んでひざをすりむいた子が泣き叫んでいるとき、そんな傷で、死ぬわけがないじゃん、という意味でいったのだと推論する。

 そしてこのように発話に対して発展という操作を施した結果得られるものを「表出命題」といい、意図明示的に伝達された表出命題を「明意」と呼ぶ(明意の定義)。表出命題はたいてい明意になるが、「そうだね、あいつは物知りだ。なにしろ寝る時には目を閉じればいいと知ってる」と皮肉を言う場合、「あいつ」という語を飽和によってはっきりさせたとしても、「太郎は物知りだ」という表出命題は下線部の明意(伝えようとしていること)ではない。なぜなら本当に言いたいことは「太郎は物知りだと考えるのは滑稽な思い違いだ」などであろうからだ。

 発展という肉付けは発話に使われた言語形式をもとにしているが、暗意は推論のみによって得られる。たとえば次のような会話について考えよう。「今日の飲み会に出る?」「高校時代の恩師のお通夜なんだよ」彼は行くとも行かないとも言っていないが、私たちは彼が飲み会に来ないつもりだと考える。それは聞き手が次のように推論するからである。

今夜は彼の高校時代の恩師のお通夜だ。

恩師のお通夜と飲み会が重なったら人はお通夜を優先させる。

ゆえに、彼は今日の飲み会には来ない。

 一行目は発話の内容。二行目は「暗意された前提」、三行目は「暗意された結論」である。二つはどちらも暗意である。発展における自由補強においては状況などを見て発話の中身を補強しているが、暗意を引き出す推論においては表に現れていないことまで想定する。

 発話によって伝えられることは、明意や暗意だけではなく高次明意がある。これは表出命題を発話行為述語や命題態度述語の目的説として埋め込むことによって得られる。たとえば「花子は居酒屋””七福神””で聞き手を待っている、という旨をささやいた」あるいは「太郎は計画Aに参加できないことを、残念に思っている」などである。さきほど見た「太郎は物知りだよ」という嫌味も、「太郎は物知りだ、と考えるのはばかげている」という高次明意である。