最初の哲学者・タレス
アリストテレスが書き残したところによれば、人類が最初に哲学したのはいまから2600年ほど前、紀元前6世紀頃の小アジアのこと。小アジアというのはイタリアを東に、ギリシャを通過して、さらに東。黒海より南で、エジプトの丁度北付近にある突き出た部分。
ギリシャの植民都市ミレトス。そこが哲学の初めの舞台だった。
タレスは、森羅万象の始源を〈水〉であるとした。そして世界は生きた(生命をもつ)ものであり、ダイモーン(神霊)に充ち満ちているとした
―—ディオゲネス・ラエルティオス
ミレトス学派が始めて哲学をつくり出したといわれるゆえんは、かれらが神話的に世界を説明しようとする態度を捨てて、世界を世界そのものから説明しようとしたところに存する。すなわち、かれらは神々という世界を超越した擬人的な存在者によって世界の一切を説明しようとするのはなく、世界のアルケーを世界そのものの中に求め、世界の現象の生成変化する中にあって変化しない根源的な物質を探求したのである。
また、彼には有名な逸話が残っている。彼はトラキア人の娘と連れ立って天体観測へ行った。空を見上げていた彼は誤って溝に落ちてしまう。そんなタレスに、娘はこういうのだった。「タレスさん、一体どうやって天のことを知りつくそうっていうの。自分の足下にあるものさえわからないというのに」(哲学者190人の死にかた)。
タレスは陸上競技の観戦中に、暑さと渇きに老齢のため耐えられず衰弱して死んだ。