にんじんブログ

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【エッセイ】特になにもしなくていい日

 いつもなにかしなければならないという気持ちに追われている。これは勤勉ではない。「生産性」ではかられるようななにごとかを為さねばならないと躍起になる、ほとんど現代の病である。こんなに暇しているなら働いているほうがましじゃないかしら、だってそうしたらお金になるもの。でもどうして暇していたらいけないのかしら。時間の無駄だからよ。なぜって、あなた、機会損失ということばをご存知?

 レイ・ブラッドベリ華氏451度』で描かれる世界は、人々から余暇を失わせた。ものをじっくり考えなくなった。誰も本を読まなくなった世界でひときわ輝く、自称・イカれた17歳のクラリスは、ベイティーにこう評されている。

あの子は物事がどう起こるかではなく、なぜ起こるかを知りたがっていた。これは厄介なことになりかねない。いろいろなことに、なぜ、どうしてと疑問を持ってばかりいると、しまいにはひどく不幸なことになる。

華氏451度〔新訳版〕

  人々は考えるのをやめた。それは傷つけ、傷つけられることへの過度の忌避から生じたものだ。文明の発展がそれを導き、また、それを決定的に封じ込めることにした世界では、夜寝静まるとき、胸裏に涌く「おれはしあわせじゃない」ということばを聞く―――「そこでみなさん、この商品がおすすめです。これは寝るときに効果のあるもので」あるいはこう。「眠るのは時間の無駄。睡眠時間を短くする方法とは」―――まるで主人公の妻・ミルドレッドが〈巻貝〉を耳にはめるように、自分の声から耳を塞いでしまう。

夜深人静、独坐観心、始覚妄窮而真独露

夜深く人静まれるとき、独り座して心を観ずれば、初めて妄窮まりて真独り露わるるを見ゆ。

夜が更け人々が寝静まった時、独り座して自己の本心を観照すると、次第にもろもろの妄念が消滅して、自性清浄の真心だけが現れてくるのを覚える。

菜根譚 (岩波文庫)

  実は睡眠時もそうだが、ぼうっとしてるときも、人間の脳は活発に働いているらしい。脳全体ではなく、各脳領域がネットワークを結び、リズムを合わせ始める。これをデフォルドモードネットワーク(DMN)という。DMNは内省やメタ認知でも同様に活動が活発になることで知られる。セレンディピティにもこれが関係するかもしれない。また、認知症ではDMNが分断されており、うつ病ではDMNのオン・オフ切り替えがうまくいかない。休まない筋肉は壊れてしまうものだ、という教訓を教えているのかもしれない。

 

華氏451度〔新訳版〕

華氏451度〔新訳版〕