にんじんブログ

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(メモ)アイデンティティ

 

 社会心理学では、「私は〇〇だから、~するためには△△しなければならない」というのをアイデンティティ不随条件という。〇〇にはアイデンティティが入り、~には目的、△△にはなんらかの行為が入る。たとえばアメリカのある地域では、黒人の子供がプールに入るためには何曜日の午後からと決まっていたりするし、日本人にしたってカフェで座ってはいけない席が決まっていたりする。アイデンティティ不随条件は大体の場合は『行動制限』という形で現れ、こうしたことが自身が「黒人であること」や「日本人であること」といったアイデンティティを意識する(あるいは「遭遇」する)きっかけとなる。

 私たちにくっつく「日本人」「黒人」「女性」「男性」「ハゲ」「デブ」「童貞」といったような類型にはたいていの場合「童貞は気弱」といったようなステレオタイプがくっついている。「えーっ、やだ。童貞? きもーい」と思うのを偏見、「童貞はチームに入れてやらないよ」というのは差別という(ステレオタイプ・偏見・差別の区別)。ステレオタイプが恐ろしいのは、私たちがそれを意識せずとも、また、差別野郎がそばにいなくとも、私たちに影響を与えることだ。これがわかりやすい『行動制限』以外のアイデンティティ不随条件を形成する。それが『ステレオタイプ脅威』であり、ステレオタイプ通りのありがちなイメージを追認することの恐怖である。

 たとえば「女は地図が読めない」と思われている(らしい)ので、「地図を読む能力を試験します」とやれば、試験を受けた女性のスコアの平均値はガクッと下がるだろう。この『ステレオタイプ脅威』が『行動制限』と異なるのは、立て看板みたいにはっきりと「こうしては駄目!」とは書いていないことで、ステレオタイプ脅威を感じている人は自分がそれに影響されたとはまったく感じておらず、スコアが悪かった原因を自分以外のものに求めることだ。ステレオタイプ脅威がもたらす圧迫感はもちろん時には集中力を上げる効果もあり、きわめて簡単なテストの場合はむしろ成績が向上するのだが(「お前は〇〇だから人一倍努力しろ」はこの意味で、かつこの意味でのみ、正しい)、その圧迫感のストレスたるや尋常ではなく、高血圧になるわ脳の処理がいっぱいいっぱいになるわまったくいいことがない。

 逆に言えば、その環境においてなにが自分の「主要なアイデンティティ」になるかは、『不随条件』を最も感じるアイデンティティであるといえる。たとえば男が男子トイレに行くのは「当然」だが、この「当然」に害がないのはそれが非常にニュートラルなもので単なる区別にすぎず、自分の性を強く意識することはない。また、黒人はバスケがうまいと思われている(らしい)ので、バスケの試合ではかなり頼りにされる。こういうポジティブな条件では「黒人」が目につくことは逆にない。アイデンティティが浮上してくるのは、その不随条件が脅威になるときだ。

 

 社会心理学者クロード・スティールは「自己肯定化理論」というものを提唱した。つまりこういうものだ。

人間というものは自分を非常に善良で道徳的だと思っており、その自己認識が崩れるようなことが起きると、それを取り戻そうと必死になる。取り戻せない場合は自分を正当化したり、行為の解釈を変えたりしてでもイメージを取り戻そうとする。

 そしてさらにここから、ひとつの仮説をたてた。アイデンティティ脅威は、自己イメージが壊れる可能性によって起こるのだと。つまりほうぼうから発せられる脅威のサインは自分が誠実な人間だというイメージを打ち崩そうとする、それがために、『アイデンティティ脅威』となる。根源的なのは「自己肯定化」の作用なのだ

 実際、彼は実験をすることになる。

教員は新年度が始まってすぐ、担任の生徒全員に、一人ひとりの名前が書かれた封書を渡す。このとき無作為に選ばれた半分の生徒には、自分にとって最も重要な価値(家族関係、友達関係、音楽に秀でていること、信仰など)を二つから三つ挙げ、その理由を一段落の短い文章で説明せよという指示が入っている。(略)作業時間にして一五分ほどの簡単な課題で、生徒たちは書き終わった用紙を封筒に戻して、先生に手渡す。その後、学期中に同じような作業を何度かする。

ステレオタイプの科学――「社会の刷り込み」は成果にどう影響し、わたしたちは何ができるのか

 これは「自己肯定化作業」と呼ばれる。この作業は自己肯定するための物語を構築する機会をたびたび与えるもので、そしてそれだけのものである。この結果、自己肯定化作業を行ったグループの成績は向上した。