「長い余生を、健康で楽しく暮らしたい。そして、最後までボケずに、安らかに死にたいものだ。そのためには、これからどんな暮らし方、どんな生き方を選択すればよいのか」
長寿法や健康法には満足できず、宗教書や哲学書は難解で、老境に入った文学者が好んで書く老い方談議も単なる経験談の切り売りで役に立たない。そこで参考にすることにしたのは「老年学(ジェロントロジー)」だった。老年学は延命を目指すものでもないし、老人を厄介だとも捉えない。老年学の本来の目的は、「老人を肉体的にも精神的にも損なう多種多様な不快や困難――それを何とかして避けられるようにしてやること」「生きる意欲を持った生き生きした老人をつくりだすこと」である。
第一章 寿命と老化について
ヒト以外の野生動物の多くは、成長期・生殖期が終わると死んでしまう。ところが人間の場合には生殖器が終わった後もなおも生き続ける。
- 成長期 生まれてから性成熟までの期間
- 生殖期 子孫を産んで育て上げるまでの期間
- 老年期 生殖期以後
レオナード・ヘイフリックは老化全体のシナリオを「保証期間の過ぎた安い腕時計」にたとえる。しかしこのガタつきかたには個人差があり、老化速度は同じではない。
※ ところで最大寿命に関しては『体重に比べて脳が重ければ重いほどその種は長生きする』(頭下指標論)による推定で115歳だろうと考えられている。ジャンヌ・カルマン氏は122歳で亡くなったが、この観点からは疑問であるようだ。医学と衛生環境の改善によって人間の平均寿命はとても延びたが、それももはや限界に来ている。というのも、「もし明日すべてのがんが一掃されたとしても」寿命は二年しか延びないし、心臓病が消えても三、四年しか延びない。
※ ゴルペンツ・パターンという死亡率に関する統計的法則がある。生殖期以降、人間の死亡率は八年後に二倍になる。
老化とは、心身機能の進行性の衰退をもたらす、結果として死の危険を増大させるような現象である。これほど重要な現象でありながら、その原因についてはほとんどはっきりしていない。年をとることは体力や健康の衰えに気が付いていく、非常に憂鬱な過程であり、ふつうは好まれない。そのため、あらゆるアンチエイジングが試されているが、残念ながら決定的に老化過程に影響を与えるものは存在しない。
しかし一方、たしかに老化は衰えるものであるけれども、私たちが思うほど深刻なものではない。
- 年をとったら虚弱な病人になるというのは間違い。かなり高齢になっても圧倒的多数はほとんど機能障害を抱えておらず、八十五歳以上でも40%は心身に異常なし。
- 新しい技術を習得できないというのは間違い。重要な知的機能が低下していた高齢者にも、訓練を施すとその能力は回復し、しかも一時的なものではなかった。