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にんじんと読む「漱石とその時代 第一部(江藤淳)」🥕 1

1.慶応三年

 夏目金之助が生まれたのは慶応3年1月5日(旧暦。現在の1867年2月9日)のことである。生まれたのは江戸牛込馬場下(現在の新宿区喜久井町)。父は夏目小兵衛直克(50)、母は後妻千枝(41)、五男三女の末であった。

 この年は慶応と明治が入れ替わる年である。この激しい動きの中で、物価は上がり治安は悪化した。夏目家にも泥棒が入ったぐらいである。父は五ヶ町の名主と六ケ所の門前名主を勤めてり、馬場を支配していた*1。名主は町奉行所直属、つまり幕府地方行政組織の末端である。身分は町人だが帯刀を許された。そういうわけもあって父が町を歩くと「それ、名主様のお通りだ」とさえ言われたという。道楽者の祖父が使い潰した財産を父は一代で築き直したほど収入が多く、その収入に応じて名主の威勢も決まるから、父は警察権さえ持っていた。

 しかし漱石こと金之助は当時の生活の様子を「夢のようだ」と感じている。華美な安定した生活は、江戸時代から明治時代への移り変わりの中で徐々に崩れ落ちて行ったからである。「西洋」という相手に、江戸の政治体制は根本的に揺らぎ始めていた。

 

漱石とその時代 第1部 (新潮選書)

漱石とその時代 第1部 (新潮選書)

  • 作者:江藤 淳
  • 発売日: 1970/08/01
  • メディア: 単行本
 

 

*1:江戸時代の途中に新たに門前町という新たな町ができ、そこの名主として選ばれたのが門前名主である