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にんじんと読む「英語独習法(今井むつみ)」🥕 ③

carrot-lanthanum0812.hatenablog.com

 リーディングと文法は重視されるが、しかし、それは受容の段階に留まる。レシピ本を読み込んでも料理がうまくなるわけではないように、書いたり、話したり、聴いたりしなければ良くない。文部科学省も、「読む」「聴く」「話す」「書く」という四技能を育てることを学習指導要領に明記したところである。しかしだからといって、最初からこれらに同じだけ時間を使うのは認知過程の観点からは合理的ではない。語彙が知らないうちにリスニングの練習をしても、意味がない。だからまずは語彙を身に着け、育てたい分野のスキーマを身に着けることに時間を使ったほうがいい。

語彙が豊富にあり、スキーマが働くトピックなら――ここが大事なのだが――自分が絶対に理解したいと思う内容であれば――少し耳が慣れれば英語はおのずと聴こえるようになる

英語独習法 (岩波新書 新赤版 1860)

 母語においては、もちろん、ことばはまず耳で仕入れるものだった。しかし第二言語以降となると、そもそも音素が母語と違うので、習得は容易ではない。実は世界中の赤ちゃんはすべての言語で区別されている音を聞き分けることができ、音素のレパートリーを0歳代から蓄積していく。日本人の赤ちゃんでも「r」と「l」の音の違いはわかるのである。しかしわからなくなっていくのはなぜかといえば、rやlの音の違いに、注意を払う必要がないからである。つまり「音のスキーマ」が違うのだ。音の情報処理にも、母国語のスキーマが邪魔をする。

 リーディングと比べ、リスニングは認知的な負荷が高い。なぜかというと、リーディングは戻ることができるが、リスニングはできない。自分でコントロールすることができない。しかも相手が録音された声だと、「なんていったの?」と言い直させることもできない。試験ならなおさらである。人は情報を選別する。これは音でも変わらない。ある程度次に来ることばが予測できないと、知っていることばでも絶対に聴こえないのだ。だから状況がわかる映画などのほうが、試験よりもよほどわかりやすいことになる。英語のリスニング試験は文脈など一切なく、いきなり会話がはじまる。リスニング試験のCDを聞くのが最もよい、と考える人は多いが、音声以外の状況を頼りにできる映像メディアを教材にしたほうがよい。

 ここでもやはり、語彙を増やし、スキーマを訓練することだ。

 

 というわけで、技能を育てるためには、語彙力が基礎となる。しかしこの学習法に誤解があって、人は、多読や多聴が語彙力向上に資すると考えてしまう。認知心理学的には何の根拠もない。人の情報処理は、基本的に目的志向的なので、必要のないとされる情報はなんであれキャッチされない。記憶は当然、キャッチされた情報をもとに行われるが、捕まえ方が肝心で、単に眺めやるだけでは語彙は増えない。意味を考え、辞書で確認し、もう一度文脈で考えるなど、それぐらいしないといけない。多く読んだり聴いたりすればいいだろうというのは真逆の発想である。『多読学習は、ほとんどの単語を知っている文章の中でたまに出てくる知らない単語の意味を、読み取った内容と、自分がもっているスキーマを使って推測する練習』と考えよう。

 すなわち、熟読が肝心だ。(1)辞書を引かずに読み通す。知らない単語にマーク。(2)辞書で単語を調べ、推測した意味と合っているかたしかめる。語義まで調べる。(3)もう一度読み直し、本当に文脈に沿っているか見る。……とここまでやると記憶に定着しやすい。

 あるいは、熟見だ。(1)字幕なしで映画を全部見る。字幕なしでもなんとなく内容がわかり、中身が好きなのであれば、繰り返し見よう。(2)日本語字幕つきで英語を聞く。どうしても聞き取れない単語やフレーズがあったら、英語字幕で確認する。セリフがほぼ聞き取れるようになるまでやる。

 映画の表現は、基本的に英単語をそのまま訳しているわけではない。「動くな」というのはDon’t moveと思うのが自然な発想だが、映画ではStayと言っていたりする。日本語は一般的に名詞のウエイトが大きく、名詞を中心にして文意が作られる。しかし英語で中心なのは動詞と前置詞であり、何か伝えたいことを動詞で伝える。自然な英語を使うためには、動詞が重要な役割を果たす。このことがわかるのも熟見の利点である。

 とはいえ、魅力的な作品でないといけないし、自分の英語力で手に負えないといけない。字幕なしで見て、まったくストーリーも把握できないものは無理だと思ったほうがよい。長台詞で複雑な心の動きを表現するようなものは向いていない。アクション映画がよいかもしれない。アニメが好きならアニメも良い。

 

 

 アウトプットといえばライティングとスピーキングだが、重視するのはライティングである。スピーキングは即時のフィードバックがなければ効果はないが、ライティングは何度も何度も書き直すことができる。ライティングは自己フィードバックが肝心で、むしろ教師から「正しい言い方はこれだ」などと正答を出されていたら英語力は身につかない。(1)もっといい表現はないのか、(2)自分の苦手な冠詞の使い方はどうか。主語と動詞の数の一致、時制など、個別に注意して見直す。―――そのぐらいをやって、ようやく人に見せる。

 これで、文を作る感覚を磨いたら、ようやくスピーキングに本腰を入れる。英語が日常的に使われる環境に短期留学したり、現地の人と話す機会を作ると、もうすでに下地はできているので大変合理的に熟達する。

 

英語の冒険 (講談社学術文庫)

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